たった一試合、君と私の甲子園


お願い・・・

打たないで・・・


私は両手を合わせ祈るように、
そう願った。



この試合だけは、


この甲子園の一試合だけは、
私だけのモノにしたい・・・


この輝いた宏大の姿だけは、
私だけのモノにしたい・・・


紗奈も知らない、
甲子園での宏大の姿だけは・・・



お願い、宏大・・・


打たないで・・・


「宏大、絶対打ちよぉー!!
打たな紗奈は
甲子園に来られへんねんでぇー!!!」


私はバッターボックスに向かう宏大に
そう大きな声で叫んだ。



違う・・・


私は口に出してる言葉とは裏腹な、
まったく逆のことを思っていたのに・・・



打たないで!!


そんな酷いことを思っていたのに・・・




宏大は私の方を見て小さく拳を上げ、
ニコッと笑った。



笑わんといてよ・・・


紗奈の名前出して、
笑わんといてよ・・・



『さぁ、夏の甲子園準決勝!!
神楽高校対谷松商業の一戦は
回も大詰め、9回の裏神楽高校の攻撃。
試合は1-0で谷松商業がリード。

しかし神楽高校は、
ツーアウトながらランナーは一、二塁、
一打出れば同点、
長打が出ればサヨナラというチャンス!!

そしてバッターボックスへ向かうのは
神楽高校4番、佐久間くん。』




本当は打ってほしい・・・

勝って決勝へ行ってほしい!!


でも、今日勝てば、
明日は紗奈が甲子園に観に来る・・・


だから打ってほしくない!!


でも、宏大には勝ってほしい!!



私・・・

私、何考えて・・・


私は見てられなくなって顔を伏せた。



最低だ、私・・・









バッターボックスに入った宏大の目は鋭く、
気迫に満ち溢れている。


それは相手の投手も同じ、
グランドでは気迫と気迫の勝負が
繰り広げられていた。


カキーン!!


『ファール、ファール!!
佐久間くんの打った打球は
三塁線を襲ったが、わずかに切れました。
これでカウントは、
スリーボールツーストライク、
佐久間くんも追い込まれました。』



あと一球・・・


宏大・・・ 


私は宏大の姿を見れなかった。



この日のためにずっと努力をして来た
宏大を私は知ってる。


毎日毎日、泥だらけになりながら
頑張って来た宏大を、
私は知ってる・・・



宏大・・・


私は俯きながら
ただ祈るように両手を合わせた。





『ピッチャー牧野くん、
セットポジションに入った。』



『かっ飛ばせ、宏大!!
宏大!! 宏大!! 宏大!!』


神楽高校の応援席からは
祈るような応援が飛ぶ。



『あと一球!! あと一球!!』


谷松商業のスタンドからは
あと一球コールが起こる。



『さぁ、これが最後の一球になるのか?
牧野くん、セットポジションから
第6球目を投げたぁー!!』



宏大!!


私はハッと顔を上げた。


カキーン!!


あっ!!



『打ったぁー!!!
佐久間くんの打球は右中間へーっ!!!
打球はぐんぐんと伸びるぅー!!!』


行けっ・・・

抜けろっ!!


それは私が咄嗟に思ったことだった。



『しかし佐久間くんということで、
深めに守っていたセンター、
打球に追い付くかぁー!?』



いやっ、捕らないでっ!!


この打球が抜ければ、
宏大たちは勝ってしまうのに・・・



抜けて!!


勝てば紗奈が来るのに・・・


この想いが私の本心・・・?



『センター飛びついたぁー!!』



宏大と私だけの甲子園にしたいのに・・・



「抜けてぇー!!!」


私はそう大声で叫んでいた。