まず始めに、
1時間をしっかり体に染み込ませた。60分間、秒針を見つめ続け、そのリズムを頭に叩き込んだ。

それからストップウォッチを買ってきて、
60分をきっちり感覚だけで図れるよう特訓をした。ストップウォッチを買いに家を出ようとすると、母親がリビングから顔を覗かせ、まるで新種の動物を見るような目で由良を見つめていた。
その口元は笑っているような泣いているような、複雑なものだったけれど、由良の関心はすっかり長い長い1時間にあったので気に止めることもなかった。


感覚だけで図れるようになるにはちょうど一週間かかった。その間に、昔のクラスメイトから手紙が届き、それを破り捨て、母が泣きついてくるのを睨み付け、そんな風な彼女の気持ちを憂鬱にさせる出来事がある度に、長い長い1時間はますます長くなっていった。