目を覚ますと
そこは一面の闇だった。

由良(ユラ)は腕を振り回し、やっとの思いで部屋の明かりをつける。

赤いクッション、黄色い時計、青く塗られた勉強机。ベッドシーツは紫色で掛け布団は目がチカチカするほどに鮮やかなオレンジ色。

由良の部屋は何年も前からこのままだ。
彼女は自分の好きな色をまだ知らない。試せば試すほど、部屋は不協和音を奏で、そして絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜたように灰色に濁っていく。だから由良は部屋の明かりをつける度にひどく憂鬱な気持ちになった。



『2時』

ヒヨコ型の目覚まし時計を白く細い手で持ち上げ、彼女は呟いた。
また、早く起きすぎてしまったのだ。最近、由良は何時に寝ても2時に目が覚めた。

9時に寝ても、1時50分に寝ても、とにかく2時に目が覚める。そしてなぜか、毎日清々しく目覚められるのだ。
10時間も寝ても、10分しか寝ていなくても、毎朝同じ気持ち。

また、2時から3時までの1時間が異常なほど長く感じるのだ。『そんなに早く起きても仕方がない』
そう思ってもう一度よこになるのだが、どうにも時間が過ぎない。
彼女は相対性理論のことを思い、アインシュタインが言っているのはこういうことであったかと実感していた。
横になって、その長い1時間を過ごす間、体を動かしたい衝動をよく感じた。ゆらゆらと波に揺られているような、体を自然と動かされているような不思議な感覚に襲われ、彼女は1時間に何度も寝返りをうった。

長い長い1時間が終わると、嵐のように時間は吹き飛んで行く。そうして、あっという間に辿り着くのはまた長い長い1時間なのだ。


由良は必死に目を閉じた。どこか怪しく恐ろしく、しかし抜群に清々しい。体はなんだか気持ち悪く揺られている。眠たくならない自分を恨んだ。