手には一箱の洗剤。

その様子から、どうやら引っ越しの挨拶をしに来たと見える左隣。

もとい…神埼恭汰。

「…」

「…」

誰か、お願いします。

どうにかしてこの、気まずさ前回な場を救っていただきたい。

何の苛めなのだろうか。

つい先日恥をかかされた、お互い印象の最悪な二人。

その二人が奇跡的に同じクラスで、隣の席で、あろうことか家まで隣、なんて。

こんな奇跡があるのならば、私はもう二度と奇跡なんて望まない。

維持でも、望むものか。

とりあえず、沈黙がこんなに辛いと思ったのは人生で初めての体験。

その痛いほどの沈黙を破ったのはほかでもない、ケホケホ、という神埼の乾いたちいさな咳だった。

「神埼、まさか…?」

「あぁ…悪い、風邪引いてんだ」

風邪を、引いている。

「入って」

「は?」

「…家、入って!!」