ドカッドカッドカッと、数頭の馬の走る音が聞こえるとともに、2本の剣がアランめがけて投げられた。
―――ヒュン―――!ヒュン―――!
風切り音を立てて剣は一直線に飛び来る。
「―――くっ」
一本は剣で薙ぎ払うも、もう一本は間に合わず、間一髪でなんとか避けた。
馬がいなくなると、賊長の姿はもうそこにはなく、小さな血だまりだけが残っていた。
「アラン様!お怪我は!?」
「無い―――奴等を追うな!」
「―――ですが!」
「長は動けぬ。ゆえに、もう襲って来ぬ。被害の確認をし、列を組み直せ」
追ったとしても、何も出てはこないだろう。
それに今は旅先だ、却って被害を拡大しかねない。
それよりは、早く入国して怪我人の傷を癒す方が先なのだ。
アランは剣を鞘に仕舞い、ウォルターにメイの状態確認を命じ、エミリーの待つ馬車に向かった。
ブルーの瞳には、黒馬車がほのかな光を放っているように映る。
溢れるほどの、天使の気。
よく、敵にバレずに済んだなと思えるほどだ。
扉を開けた途端に、ふわりとしたオーラがアランを包み込む。
胸の前で手を組み瞳を閉じていたエミリーが、ゆっくりと顔を上げる。
その瞳からは、見る間に涙が溢れてきていた。
「―――アラン様・・・アラン様、よかった・・・わたし、わたし――」
か細い体を抱き締めれば、小さな手が服をキュッと掴む。
その感触と、胸に埋もれるあたたかさは、アランを心底安堵させ癒していた。
「エミリー、すまぬ。不安にさせたな?」
武骨な指先が、頬を伝う雫をそっと拭う。
目覚めかけていた銀の龍は、エミリーの気を感じたとたん、再び深い眠りに落ちていた。
「もう心配せずとも良い。メイもナミも無事でおるゆえ」
「ほんとうですか・・・皆も?」
心の中そのままに、ゆらゆらと揺れる美しいアメジストの瞳。
アランの心中で愛しさが満ち溢れていく。
守らねばならないと、強く思う。
「今確認をさせておる。が、おそらく大丈夫だ。我が国の兵士は皆強い。今少しここで待っておれ。私は、兵からの報告を受けるゆえ」
「・・・はい」