エミリーが馬車で祈っている最中。


剣を手にしたアランは準備されていた騎馬に乗り、白馬車のところで敵と睨み合っていた。

すぐそばでは、ウォルターとシリウスが敵と抗戦している。


アランと対峙しているのは、一分の隙も見せない強い気を持つ男だ。

アランの威厳と覇気を受けても怯まないあたり、この賊の長だとみていいだろう。

しかも、かなり、強い―――


アランは剣を鞘から抜いてぐっと握り締め、いつでも攻撃できるよう気を込めた。



「そなた等、これが何者の車列と知っての暴挙か」

「当然!その通りで御座います。ギディオン王国、アラン王子様――」



男は一音一音噛みしめるようにゆっくりとアランの名を呼んでみせ、剣を構えながらニヤリと笑った。

細められた瞳は鋭い光を放ち、ただの盗賊ではないものを感じさせる。


見たところ、ざっと30名はいる賊。

他の者が他の馬車を襲う中、この族長は、数名の者を伴い一目散にここを目指してきた。

そのどれもが強く、ウォルターとシリウスも苦戦を強いられている。


間違いなく、襲撃の真の目的は金品などではない。


白馬車の中の者、王子妃エミリーだ。




「王子様!我等は、貴方様の大切なものを戴きに参じました。どうか、お覚悟を!!」




―――ガンッ!



剣と剣がぶつかり合う音が響く。


言い放たれた言葉と共に突進してきた賊長の剣を受け払って、アランはひらりと馬車側に避けた。



中ではメイが声も出せずに震えていることだろう。

エミリーのメイドであり、友人でもある大切な者。

絶対に傷付ける訳にはいかない。

さらに、中にいるのが王子妃でないと分かれば、狙いは即座にあちらに移る。

ここで、仕留めなければ――――



賊長はすぐに体勢を立て直し、剣を向けて突っ込んでくる。




「流石、噂に違わず、やりますな!!」




―――ギンッ!―――ガッ、キン!



目にも止まらぬ速さで打ち合わされる剣。