「あなたも、たまには思い切り遊びたいのよね?あ・・・モルトさん、シャルルを放しても、いいですか?」

「はい、エミリー様。ここにいるのは、私共だけです。どうぞ、構いません」

「ありがとうございます。シャルル?あまり遠くに行っちゃダメよ?」



エミリーは言い聞かせながら結んでいた紐をほどき、シャルルを放した。

すると、さっそく手近な場所でひらひらと舞う蝶を相手に、嬉々として遊び始める。

まったき猫の姿。シャルルはこうでなくちゃいけない。

その様子を、傍にあったベンチに座って眺めた。



風が薔薇園の中を吹き渡っていく。

それが昨日よりもあたたかく感じられて、エミリーは、春が来たことを実感した。

のんびりと過ごす午後のお散歩。

とても気持ちのいい日だ。



隣に座るモルトも、このまったりと穏やかなひと時を堪能していた。

春の日和のせいもあるが、これは、すべてエミリーのオーラがもたらすもの。

この気は、城全体に漂ってはいるけれど、間近で感じることなどは滅多にない。

エミリーが天使の力を宿していることは、国一番と言ってもいい極秘事項で、城の者でも極数人しか知らないこと。

ウォルターやメイでさえも知らず、それは勿論モルトも。


だからモルトは思うのだ。

本当に不思議なお方だと。

この方が城からいなくなったら、一体どんな空気に成るのかと。


話しかけようとして隣を見たモルトは、そのまま目が奪われてしまった。


奇麗な細いうなじの線にかかる、柔らかなおくれ毛。

それが、風に遊ばれふわふわと揺れる。

ふんわりと漂ってくるせっけんの香り。

透けるように白い肌に、ふっくらと柔らかそうな唇は弧を描き、優しい微笑みをつくる。

身体全体が光り輝いて見え、それはそれは何とも美しく―――


あまりに眩しくて、目を細めながらも逸らすことが出来ない。

これは、青年であれば迷わず手が伸びてしまうだろうと、思えた。

アランが塔の奥に仕舞い込むのも、十分に分かるというものだ。


年甲斐もなく見惚れてしまうモルトの背後に、ぴりぴりとした殺気が迫る。

ハッと気付き、慌てて目を離して振り返れば、シリウスがすぐ後に立っているのが映った。



「いや、これは・・・すみません・・・」




小声で謝罪しつつ、額から流れる冷や汗を拭うモルトの様子に気付き、エミリーは心配そうに眺めた。