午後のひと時。

あたたかな日差しが射し込む執務室の中。

アランは、とある書類に目を通していた。

精悍な頬にかかる銀髪の間からは、厳しい表情が覗く。

昨夜のデートで見せたものとは全く違う、王子の顔。

文字を追うブルーの瞳は鋭く光り、形の良い眉はどんどん寄せられ、ピリピリとした気が部屋の中に充満していく。



「・・・やはり、そうか」


読んでいたものを、ぱさ・・と机の上に置き、瞳を閉じ腕を組む。

今、医務室には、一人の少女がいる。

そう。数日前にパトリックが連れてきた者だ。




『暫くの保護と療養を願い出る！』



あの日、朝一番に執務室を訪れ書類を突き出したパトリックは、その行動とは裏腹に落ち着いてはいたが、面持ちはいつになく真剣だった。



「書類処理は後にしてくれ。兎に角、先に、様子を見てくれないか」



その尋常じゃない様子に、机に置かれた書類はそのままにして急ぎ馬車まで赴いた。

車内を見たその時受けた衝撃は、かなりのものだった。



―――何故、このようなことになったのか――――


包帯だらけの身体、昏々と眠りつづける少女。

その姿は、一見しただけで、かなり酷い容体に思えた。

すぐさま医務室に運び込めば、案の定、フランクは眼鏡の奥を光らせて唸った。



「フランク、それほどに酷いのか」

「はい、王子様。これは、かなりの長い距離を休みなく歩いて来たのでしょう。ご覧下さい―――この、脚を」



フランクの示すところを見た刹那は、声を失ってしまった。

足に巻かれていた包帯とその白かったであろう肌は血に染まり、衣服に隠れていたであろう部分にも無数の傷があった。



「これ程になるまでに・・・」

「第一発見者はサリーだ。夜明けに店の前で倒れているのを見つけ、保護と治療をしていたんだ」

「街の医者がどんな診断をしたのかはわかりませんが、ここにお連れ頂き正解でしたね」



そう話しながらも、点滴を用意しテキパキと治療を施すフランクが、再び口を開く。




「ですが、出来うる限りにされた治療は適切でした。そのお方に保護されたのは、不幸中の幸いでしたね。年も若いですし、怪我もすぐに治るでしょう」



街医者の治療には限界がある。

大きな病院に連れていけばまだ良いが、この少女は得体が知れないため、サリーには無理だったのだろうと思えた。



「詳細が判明するまで、この件は内密にした方が良い。皆、そのように対処せよ―――」