皆が部屋の中でくつろぐ夜遅い時間。

なるべく足音を立てずに塔の中を歩く二人。

アランは軽く着替えを済ませているが、エミリーはナイトドレスの上にマントを羽織ったのみ。

何故か着替えを止められて“君は、これをしっかりと着て、なるべく隠れておれ”と言われ、フードを被っている。


華奢な身体を守るように腕の中に収めて、ゆっくりと歩くアラン。

それに楚々と従うエミリーの瞳は、嬉しげにキラキラと煌めく。

夜に出歩くなんて、本当に数える程しかないのだ。

単純にもそれだけで心が浮き立つのに、更に『月夜のデート』なのだ!


“ロマンティックですわよ”


先生の言葉を思い出して、いろいろ聞きたくて、ちらちらそわそわと視線で訴えるけれど、アランは真っ直ぐに前を向いたままで何も反応しない。

声を出すなとは言われていないけれど、部屋を出る前にアランがして見せた仕草と言葉は、十分に口を閉ざす力を持っていた。


あの時、唇に人差し指を当てて、扉の向こうの様子をじっと窺っていて―――



「アラン様?お出掛けは、ないしょなのですか?」

「そうだな・・・見つかると、少々面倒な者が居るゆえ。帰宅しておれば良いのだがな・・・」



その表情は真剣だけれど瞳は輝いていて、ちょっぴり悪戯っこくて、なんだか楽しげに見えた。

まるで、童心に戻っているような。



「アラン様も、夜更けに塔を出るのは初めてですか?」

「いや、そんなことはない。以前には、このように気持の良い夜は馬で駆けたりしていた。今は、守るべき者があるゆえに・・・よし、今だな・・・」



守るべき物って?と聞こうと口を開いたら「参るぞ」と、素早く腕の中におさめられて滑るようにして、廊下に出た。

後ろ手で扉を閉めたあと、内緒の仕草をして見せるアランに、エミリーは無言のままこくこくと頷いて微笑んで見せる。

いつも冷静で大人なアランのこんなところは、初めて見る。

表面にはあまり出ていないけれど、その心中はきっと同じくらいにワクワクしているに違いない。

茶目っ気たっぷりに笑う国王の瞳と重なる。



―――やっぱり、お義父さまによく似てるわ―――



いつも素敵でドキドキさせられるばかりだけれど、このとき初めて可愛い部分を見ることが出来た。

アランの子供のころを垣間見たような。

新たな一面の、発見だ。



曲がり角の前にくると、必ず慎重になるアランをそっと見上げる。