“特別なことですので、極一部の方しか知りません”



内密に城で保護している様なものです。と、フランクは言っていた。

どんな事情かは分からないけれど、この世界に来たばかりの頃の自分と重なる。

あの時も、エミリーの存在は、あの女の子のように内密だったはずだ。

何も分からなくて、知り合いがいない中、あまりにも故郷と違う環境のこの国に、馴染もうと一生懸命だった。



「あのときは、メイが支えてくれたんだっけ・・・あの女の子は、一人きりじゃないと、いいけれど・・・」



二つの月が浮かぶ空。

煌々と輝くそれは、カーテンを開けていれば、灯りが無くても過ごせるほどに明るい。

とても神秘的で美しいこの世界、まだまだエミリーの知らないことが多い。



「あなたは、ひとりきりじゃないから、安心してね・・・」



シャルルの背を撫でていると、ベッド脇の白い扉が開く音がして、小さな足音がソファに近付いてきた。



「エミリー、今宵は、灯りをつけておらぬのか?」



エミリーの華奢な身体は、ソファの背もたれごとすっぽりと包まれる。

シャルルが膝の上にいるため、最近のアランは、こんな風にすることが多い。

エミリーは頬をアランの腕に預けて、また空を眺める。

幸せを感じる、時間だ。



「えぇ、メイに消してもらったんです。月が、とてもきれいだから、楽しみたくて―――」



二つの月は重なりそうでそうでなく、もどかしいくらいの距離に寄りそっている。

あの月が惹き合うように動いて重なり合うのは、数か月に一度だけ。

その他は、近付いてはいても微妙にずれていて、ぴったりと重なり合うことがない。

これも、この世界の神秘の一つ。



―――今度は、いつ重なるのかしら―――



「そうだな、今宵は特に良いな・・・では、今から出掛けるか?」

「え?今から、ですか?」



驚きのあまり、耳の傍にあるアランの二の腕を掴んでアランを見上げると、ふわりとした微笑みが降ってきた。



「もう遅い時刻なのは分かっておるが・・・フランクには体調が良いと聞いた。月読みの結果、明日にしようとしていたが。この分だと、今日でも良さそうだ。風も弱いし―――急すぎるな、駄目か?」



滅多にない、アランからのお出掛けのお誘いに、エミリーの心が浮き立たないわけがなく。



「もちろん、いきたいです」



弾む声を出せば、アランはソファの前にまわりこんで姿勢を改めた。

月明かりに当たって艶めく銀髪が、さらりと肩から零れる。



「エミリー、私と、月夜の散歩に出掛けてくれるか?」



武骨な掌が、エミリーに向けて差し出された。

突然だけれど、正式な月夜のデートのお誘い。

服装はナイトウェアと、ナイトドレスのまま。

けれど、却ってそれがとても特別なことに思え、エミリーは喜んでてのひらを重ねた。



「はい。アラン様、おねがいします」