「―――だから、今度は起こしてくださいって、おねがいしたんです」

「そうですか。それは、王子様にとっては結構な試練ですね」



午前中の日が射す3階の正室の中で、向き合って座る医師フランクとエミリー。

その脇に立つのは、助手のリード――――ではなく、エミリー付きメイドのメイ。

アランの命で診察に訪れたフランクは、聴診器を終えて今度は手首の脈をとり始める。



「そうなのですか?」

「はい、そうですよ。王子様には大変難しいことですね。あぁエミリーさん、少しの間動かないでください」

「はい。ぁ・・メイもそう思うの?」

「えぇ、エミリー様。そうだと断言できます。アラン様は、渋ったのではありませんか?」



体を動かさずにメイに向けて訊ねれば、そう言って笑い声をたてる。

そういえば、“朝は、冷えるゆえに―――”と、珍しくも困ったお顔をしていた気もする。


やっぱり、我儘を言ってるのかもしれない。

それに、わたしには稽古を見られたくないのかも―――?



「はい、エミリーさん、今度は口を開けて下さい―――・・・はい、結構ですよ。流行病にかかることもなく、体調は良好ですね」



良いことです。

そう言って、フランクは、手にした道具を鞄に仕舞い始める。



「フランクさん、城の人たちが流行病にかかると、医務室で療養したりするのですか?」



エミリーの頭の中に過るのは、あの時に会ったナイトドレスの女の子。

とても不思議な雰囲気を持った子だった。

この広い城の中、シャルルのことを可愛いと言ってくれたのはあの子だけで、興味があるし、出来れば話しをしたいとも思う。



「えぇ、症状が酷ければそうしますが、最近は滅多にありません。王子様が予防策を広めておられますから、城の皆さんは健康そのものですよ。嬉しいことです」

「アラン様が――そうなんですか。あ、あの、でも。先日お散歩中に、一人の女の子を見かけたんです。少しお話もしたわ。医務室にいるって言っていたの。その子は、どうして?」

「・・・エミリーさん、お会いになったのですか?」

「えぇ、新人メイドの子ですか?髪色が綺麗な子だったわ」

「そうですか―――お会いになったのは、あの日ですね・・・それに、お話もされたとは。これは、エミリーさんには、隠しきれませんね」



フランクは何かを考えるようなそぶりを見せた後、眼鏡をギラリと光らせてエミリーに向き直った。



「あの方は、さるお方から“療養させて欲しい”と、お預かりしているんです。このことは、メイドの貴女も、他言無用ですよ、良いですね?」



いつも穏やかなフランクの強い物言いに、エミリーとメイは無言のまま大きく頷いて見せた。