そして、翌朝に思い出したのだ。

聞きそびれてしまったあのことを。

とりあえず朝の身支度中に、医務室で静養中な新人メイドの子はいるのかということと、花月のことを、メイとナミに聞いてみた。

けれど、二人とも顔を見合わせて首をひねり「知りません」「聞いたことがありません」と言って「それは、何ですか?」と逆に訪ねられてしまった。

桃色ベージュの女の子のことはともかく、“花月”という言葉は、一般には知られていない様子。


そのうちに、スケジュールやシャルルのお世話に追われて、エミリーがそのことを忘れかけた頃。

その日は、突然にやってきた―――



逞しい腕の中で、安心して心地よく眠る朝のこと。

ひたひたと頬にあたる優しいぬくもりを感じて、ゆっくりと開けたアメジストの瞳に、アランの胸元が映る。

とても厚い胸板にそっと触れながら、今日は、ナイトウェアを着ていないのね?とぼんやりと思う。

その手に、僅かな振動が伝わってくるのと同時に、アランの声が鼓膜を擽った。



「おはよう、エミリー。体調は、どうだ?」

「おはよう・・ございます・・はい・・良いです・・」



ぽーとしながら受け答えると、額に唇が降ってくる。



「そうか。今度の行事もあるゆえ、一度、フランクの診察を受けておくが良い。今日するよう手配をしておく。良いな?」

「は、い・・・」

「すまぬ、まだ眠いな?・・・今はまだ夜明け前ゆえ、メイたちが来るまで、今しばらく眠っておれ。分かったな?」

「・・・は・・い。アランさ・・ま・・・」



夢見心地のまま受け答えをし、髪を撫でられているうちに心地よくなり、エミリーは再び眠りに落ちていく。

そして次に目覚めた時耳にしたのは、いつものアランの声ではなく、小鳥のさえずりとメイの呼び声だった。


今朝は、ジェフのような団長クラスの兵士たちと久しぶりに剣の稽古をしてきたそうで、朝食のお迎えに来たアランは、とてもスッキリとした顔つきをしていた。

雪深い冬の間はずっと出来ず、アランだけでなく兵士たちにも良いストレスの発散になったそう。

早朝に、そんな稽古をしてるなんて知らなかったこと。



「わたし、アラン様がお稽古してるところを見たいの。稽古に行くと教えてくれれば、あのまま起きたわ」



残念な気持ちが先立ってしまい、ちょっぴり唇を尖らせて見上げてみたら



「そうか、君が見たいと思っているとは知らなかったな・・・。しかし、だ。朝早くに起きるなど、眠り姫な君には、無理かと思うが?」



いたずらっこく言われて、そのあと、いつも通りに蕩けるような口づけをされて―――