そのあとは特に変わったこともなく普段通りの時が流れ、今は夜。

いつもなら、もうそろそろ、夕食の支度が整ったと連絡が入る頃。

エミリーはシャルルを籠の中に入れ、迎えが来るのを準備万端にして待っていた。


今日は、アランにお話しすることがたくさんある。

それに、聞きたいことも、ある。

常に忙しいアランと十分にお話できるのは、朝と夕の食事時くらい。

短い間なので、いつもそれなりに段取りを考えておくのだけれど、アランの絶妙な誘導でお喋りしすぎてしまうのが、常。

それで、とりこぼした分を夜にまわそうとすると、掌で優しく頬を包まれて“エミリー、それは、明日で良いか?”と何とも色気のある声で言われてしまい、ドキドキして何も言えなくなるのだ。

そのまま黙っていると、抱き締められて唇が塞がれ、いつの間にか朝に・・・のパターンを辿ることが多い。


だから、エミリーにとっては、たくさんお喋りできるとても大切で貴重な時間。

あれこれと内容を整理していると、扉がノックされた。


『エミリー様、アラン様が来られました』


「ぇ、アラン様が?・・あ、はい、どうぞ」



夕食のお迎えなんて、いつもにはないこと。

もしかしたら、お客様との夕食なのかもしれない。



「でもでも、メイは身支度には来なかったわ、どうしよう?」



そんな風に、わたわたと動揺していると、昼間のままの服装のアランが入ってきた。

どうやら場所はいつもと変わりないよう。だけど、何だか雰囲気が違う様に思える。

無言のまま向き合うように立って、何故だか両掌を差し出しているので、迷いながらもそっと重ねた手を、痛いくらいにしっかりと握られた。



「エミリー・・・変わりは、ないな?」

「はい?あの、なにも・・・アラン様?なにか、あったのですか?」

「いや、何もない。君に変わりがないならば、私は、良い」



華奢な身体は、腕一本で、す・・と抱き寄せられ、ふんわりと結われた髪には何度も唇が落とされる。



「食事が出来たゆえ、迎えに参った」



とても不思議な行動と会話。

今だけに限らず、最近のアランは、たまにこんな風になる。


お仕事で何かあったのかもしれない。

訊ねても、何も教えてもらえないのは、多分きっとそうなのだと思う。

こんなときエミリーは、それ以上何も聞かずにいつも通りに振る舞うのだ。



「アラン様?今日はたくさんお話することがあるの」



そう言って見上げれば、堅めの表情が柔らかなものになる。

握られていたエミリーの手は、そのまま腕に掴まるよう誘導され、脚は自然と食堂へと向かって行く。



「そうか。それは楽しみだな」