「・・・はい、アラン様」

「で、集まりは、どうであった?」

「ぁ、とても楽しかったわ。小さな壁飾りを習うことにしたんです。リックさんの奥様が刺繍の先生で、とてもびっくりしたの。それに、一緒のご婦人方も楽しい方たちばかりで、壁飾りが出来あがったらアラン様に見て欲しくて、あの・・・」



一生懸命話をするのを見て、アランの表情が和らいでいく。



「要するに、君は、続けたいのだな?」

「はい、だめですか?」



オズオズと訊ねれば、アランの掌が頭をぽんぽんと撫でる。



「・・・その様な顔をするな。母君にそう申しておくゆえ」

「はい。ありがとうございます」



良かったわ。

胸の前で手を合わせて嬉しげに笑うエミリーを見つめるアランの瞳が、どんどん変わっていく。

頭の上を行ったり来たりするその挙動不審な手に気付き、「アラン様、どうかしたのですか?」と訊ねるのと、ちりんちりん・・・と鳴る鈴の音が、重なった。



「エミリー・・・」

「・・・はい?」

「ニャー」



―――ひらり。


鳴き声を上げながらエミリーの膝に現れたシャルルは、ちらりとアランを見上げたあとに、そのまま悠々と落ち着いた。

愛しい身体を優しく包み込むはずだったアランの手は、行き場を失い宙をさまよう。



「シャルル、ただいま。良い子にしてた?メイたちを、怖がらせたりしていない?」

「・・・シャルルは、テラスにおったのか」

「そうなんです。メイたちが怖がってしまうから、シリウスさんに籠を外に出してもらっていたの」

「そうか。少々、考えねばならぬな・・・」



何を、ですか?

エミリーがそう問いかけようとすると、アランはすでにテラスに出ていた。

シャルルの籠を手に戻ってくるのとほぼ同時に、ノック音が響いた。



『エミリー様、侍従長からお届けものが御座います』


「君の道具だろう。私が受け取る」



シャルルの籠を元の位置に戻し、アランはシリウスから道具を受け取り、そのまま何事かを話している。

頭を下げたシリウスが去り、刺繍の道具をエミリーに返したアランは「夕食時に、ゆっくり話そう」と言い残し、政務塔に戻って行った。



「アラン様は、忙しいわね・・・そういえば。どうして今日は、貴賓館に迎えに来てくれたのかしら?」



いつもには無いこと。

しかも、パトリックまで一緒にいたのだ。

遅ればせながらも、不思議に思う。



「やっぱり、何かあったのかしらね?」



シャルルの背を撫でながらアレコレと考えを巡らせていると、再びノックの音がした。



『エミリー様、ランチの支度が整いました』



「はい。今行きます―――」