その二人の後ろ姿を見るアランの横顔は、とても厳しく思える。

腰を支えている手もいつもより力が強くて、エミリーが少し身動ぎすると、更にぐいっと引き寄せられてしまう。

そんな動きづらい中、何とかアランの胸に手を置き、エミリーは伸びあがるようにして話しかけた。



「あの、アラン様。罰って、ほんとうなのですか?あれは、命令ではないの。だから―――」

「君が、案ずることではない。パトリックが上手くやるゆえ・・・良いな?」



厳しい顔つきのまま、しかもとても迫力のある低い声でそう言われ、それ以上何も言うことが出来なくなった。

「はい」と返事をしたままに俯いていたら、「帰るぞ」と、そのまま塔の方へ誘導され始めてしまう。


「お道具がまだお部屋にあるの」とか「皆さんにあいさつをしなければいけないわ」とか、急いでいろいろ言ってみるけれど、アランの歩みは止まらない。


ぐいぐい引かれていくのを、最後の手段に力を入れて無理矢理止まってみる。

けれど、抵抗を頑張る身体はいとも簡単に抱き上げられてしまい、塔に向かってすいすい運ばれていく。

玄関を通り抜け階段を上り部屋に辿り着き、警備兵に「扉を開けよ」と命じるまで、アランはずっと無言だった。


部屋の中、ソファの上にそっと下ろされたエミリーは、そのまま逞しい腕の中に閉じ込められる。

両腕は背もたれまで伸びていて、抱き締められているわけではないけれど、これでは動くことが出来ない。

ブルーの瞳はアメジストの瞳をしっかり捉えて離されることがなく、それはやっぱりどう見ても怒っているように感じられる。


“刺繍の会にはもう行くな”と言われてしまいそうで、エミリーは瞳を伏せてしまった。

思わぬ出来事はあったけれど、刺繍自体は楽しくて良かったのだ。

それに、ご婦人方とのお話は、普段塔から出ないエミリーにとってとても新鮮で面白かった。

それと、自分のことを嫌いだと言ったあの令嬢と、もっと話しをしたいと思うのも本心だ。

城下のことや貴族社会のことをいろいろ聞きたいと思う。

きっと、等身大な、生の声が聞ける筈なのだ。


開け放たれたままの窓から風が吹き込み、レースのカーテンをふわふわと揺らす。

沈黙の時が流れていき、エミリーが不思議に思いながら再び顔を上げた時、サラサラと揺れる銀髪が近付いてきていた。

呼び掛けようとしたら、そのまま顎が固定されて優しく触れるだけの唇が重ねられる。



「アラン様・・・?」

「・・・君が、国民の前に出る公務は、ほとんどないと言っていい。あの者が何を根拠に申しておったのかは分からぬが、間もなく始まる行事を除けば、基本的に、王子妃は城から出ることはないのだ。君だから、公務がないわけではない。そこのところを誤解しないで欲しい。分かるな?」