「いいえ、知りません。でも、なんとなく、わかります」
「あらそう、意外に聡明ですこと。ならば何も申しませんわ。貴女様はこれからも刺繍の会に出席なさるのでしょうから、私の気を引いておかないと不味いとお思いかもしれませんけど、そんな必要は全く御座いませんわ。私は、もう2度と来ませんもの」
「・・・それは、わたしがいるから、ですか?」
「えぇ、勿論そうですわ」
王子妃であるエミリー相手に、きっぱりはっきり言う様は、完全に下に見ているよう。
哀しげに瞳を伏せてしまったエミリーの様子を、満足げに、唇を歪めて眺めている。
エミリーの背後にいる警備兵たちが令嬢を睨みながらじりじりと間を詰めていても、怯む様子がなく、態度は上向き加減だ。
「あの、ごめんなさい。やっぱりそれはだめです。わたしのことを嫌いなのであれば、ますますあなたには刺繍の会に来ていただかないといけません」
「は?貴女は何を言ってますの?私は、会いたくない、来たくないと言ってますのよ?」
「わたしのことを、知ってもらいたいのです。お互い相手のことをよく知らないのに、嫌うのは良くないことです。だから、次回も必ず来てください。そして、もっとお話しましょう」
「な・・・私は、そんなこと―――」
「――しない、かい?あぁそれは困ったな。君は、王子妃の命令を拒むつもりかい?これは、立派に刑罰対象じゃないか?」
「え?」
背後から急に出てきた声に驚いて、エミリーが振り向くと、そこにはパトリックが立っていた。
その横からアランも出てきて、令嬢を一瞥したあとに「兵士長官に任せる」と言って、エミリーの傍に歩み寄った。
逞しい腕は華奢な腰をぐぃと引き寄せて、エミリーの視界から令嬢の姿を消してしまう。
アメジストの瞳には、窘めるようなブルーの瞳が大きく映った。
少し青ざめた頬に、あたたかな掌がそっと触れる。
「やはり、君からは目が離せぬな。部屋で待つようにと、聞いてなかったか?」
「ぁ、聞いています。アラン様、ごめんなさい。パトリックさんも・・・いつの間に来たのですか?」
「少し、前だ。気付かなかったか?」
「はい。アラン様、ばっ――」
「・・・君は、何も申さずとも良い」
武骨な指先でエミリーの動く唇を止めたアランは、令嬢の方を見た。
勿論、瞳には氷の王子に相応しい温度を乗せて。
血色の良かった令嬢の頬が、みるみるうちに青ざめていく。
「あ・・・あの、私はただ―――」
「聞かせてくれぬか。君の申す“普通”は、生憎と我が国には存在しないのだが、何処の国のことを申しておる」
王子の威厳に初めて触れたご令嬢の身体が、へなへなとその場に座りかかる。
それを、パトリックの腕が素早く捕まえて、しっかり支えた。
「―――っと。君は、こっちだ。ほら、いいかい?それから、話しも聞かせて貰うよ」
令嬢は唇を震わせながらもこくこくと頷き、そのままパトリックに支えられて貴賓館へと戻って行った。
「あらそう、意外に聡明ですこと。ならば何も申しませんわ。貴女様はこれからも刺繍の会に出席なさるのでしょうから、私の気を引いておかないと不味いとお思いかもしれませんけど、そんな必要は全く御座いませんわ。私は、もう2度と来ませんもの」
「・・・それは、わたしがいるから、ですか?」
「えぇ、勿論そうですわ」
王子妃であるエミリー相手に、きっぱりはっきり言う様は、完全に下に見ているよう。
哀しげに瞳を伏せてしまったエミリーの様子を、満足げに、唇を歪めて眺めている。
エミリーの背後にいる警備兵たちが令嬢を睨みながらじりじりと間を詰めていても、怯む様子がなく、態度は上向き加減だ。
「あの、ごめんなさい。やっぱりそれはだめです。わたしのことを嫌いなのであれば、ますますあなたには刺繍の会に来ていただかないといけません」
「は?貴女は何を言ってますの?私は、会いたくない、来たくないと言ってますのよ?」
「わたしのことを、知ってもらいたいのです。お互い相手のことをよく知らないのに、嫌うのは良くないことです。だから、次回も必ず来てください。そして、もっとお話しましょう」
「な・・・私は、そんなこと―――」
「――しない、かい?あぁそれは困ったな。君は、王子妃の命令を拒むつもりかい?これは、立派に刑罰対象じゃないか?」
「え?」
背後から急に出てきた声に驚いて、エミリーが振り向くと、そこにはパトリックが立っていた。
その横からアランも出てきて、令嬢を一瞥したあとに「兵士長官に任せる」と言って、エミリーの傍に歩み寄った。
逞しい腕は華奢な腰をぐぃと引き寄せて、エミリーの視界から令嬢の姿を消してしまう。
アメジストの瞳には、窘めるようなブルーの瞳が大きく映った。
少し青ざめた頬に、あたたかな掌がそっと触れる。
「やはり、君からは目が離せぬな。部屋で待つようにと、聞いてなかったか?」
「ぁ、聞いています。アラン様、ごめんなさい。パトリックさんも・・・いつの間に来たのですか?」
「少し、前だ。気付かなかったか?」
「はい。アラン様、ばっ――」
「・・・君は、何も申さずとも良い」
武骨な指先でエミリーの動く唇を止めたアランは、令嬢の方を見た。
勿論、瞳には氷の王子に相応しい温度を乗せて。
血色の良かった令嬢の頬が、みるみるうちに青ざめていく。
「あ・・・あの、私はただ―――」
「聞かせてくれぬか。君の申す“普通”は、生憎と我が国には存在しないのだが、何処の国のことを申しておる」
王子の威厳に初めて触れたご令嬢の身体が、へなへなとその場に座りかかる。
それを、パトリックの腕が素早く捕まえて、しっかり支えた。
「―――っと。君は、こっちだ。ほら、いいかい?それから、話しも聞かせて貰うよ」
令嬢は唇を震わせながらもこくこくと頷き、そのままパトリックに支えられて貴賓館へと戻って行った。