「あの慌てたご様子は、ご三家のお方ではありませんの?」

「あら、その程度であんな風になられるのかしら?」

「もしかしたら、外国のお方が来られたのではありませんの?」



ご婦人方が始めた詮索を聞きながら、エミリーが小さなお菓子を摘まんでいると「ちょっと、いいかしら?」とご令嬢が話しかけてきた。



「お庭を一緒に散歩しませんこと?」



つんとした口調と顔付きはキツく、どう見ても友好的には感じられない。



「あら、でも王子妃様は、迎えが来るまで部屋から出てはいけないのでしょう?」

「まあ、先生。何を言いますの。そんなの、帰らなければいいだけのことですわ。部屋から見える範囲に居ればいいのでしょう」



エミリーを助けるように言った先生の言葉を軽く一蹴し、ご令嬢は「行きましょう」と言い置いてさっさとテラスに歩いていく。



「あ、まってください」

「王子妃様、お相手しなくてもよろしいですわ」



立ち上がって後を追おうとするエミリーの手を取り、先生が心配げな声を出す。

テラスの方を見れば、ご令嬢が階段を降りて行くところが見える。

いくら自分に好意を持っていないと分かっていても、エミリーには放っておくことができない。



「・・・少し、お話してきます。だいじょうぶです。先生は心配しないでください」


心配げに眉を寄せる先生の手をそっと避け、エミリーはご令嬢の後を追った。


テラスの階段を降りて行くと、ご令嬢が噴水の前で立っているのが見える。

エミリーが近付いていくと、うつむきがちだった頭をパッと上げた。



「・・・王子妃様は見かけによらず、案外図太くていらっしゃるのね。あんな言葉を向けたのですもの、来ないと思っていましたわ」



ご令嬢はエミリーの方に振り向くことなく、噴水を見たまま続ける。



「お誘いしたのは、聞きたいことがあるからですの。いいかしら?」

「はい。なんでもお聞きください」



それでは・・と言って、ご令嬢がエミリーの方に向き直った。

その瞳に、エミリーとその背後にずらりと並んだ警備兵達が映る。



「あ・・・聞きたいことはひとつだけですわ。婚儀を終えてかなり経ちますのに、王子妃様が一切公務にお出にならない理由は何なのかしら?普通は、もっと民の前に姿を見せるはずですわ」

「それは・・・」



エミリーは答えに困ってしまった。

とりあえず令嬢の言うところの“普通”をまだよく知らないし、アランから公務のことは何も聞かされていない。

ただ、春の訪れと共に“出掛ける”ことは聞いてるけれど、それは、令嬢の言うところのギディオンの民の前に出るようなものではないのだ。



「まぁ、やはりお答えできないんですわね。私たちの間で、王子妃様のことを何て言ってるかご存知?」