ようやく訊ねられてることの意味が分かったエミリー。

恥ずかしくてドキドキして、おまけにアランが好きだと言うご令嬢の刺さるような視線も感じて、どうしていいか分からず、口ごもってしまった。



「あらぁ、王子妃様。ここは否定してはなりませんわよ。素直に、はい、と仰っておきなさいな。でないと、百戦錬磨のご婦人方に根掘り葉掘りと訊ねられて、洗いざらい全部お話することになりましてよ?王子様の事は、幼い頃から存じ上げているんですもの。どんな風に?と皆さん、興味津々なのですわ」



・・・とは言いましても、私も詳細を聞きたいのですけれど?

と、眉を上げてちらりと見られてしまい、エミリーはますますドキドキしてしまった。

詳細なんて聞かれてしまっても上手く言えないし、アランは強引なところもあるけれども、いつもとても優しくて―――・・・。



「は・・・はい・・アラン様は、あの、とてもたくましいです」



そう言うのが精いっぱいで、ランランと光るご婦人方の視線を避けるように俯いてると、まぁ本当に純情で可愛らしいお方ですわね、王子妃様冗談ですわ、と口々に言われ、ひとしきりコロコロと愉しげに笑われてしまった。


どうやら、からかわれてしまったよう。

けれど、それ以前に漂っていた妙な空気は払しょくされていて、エミリーはドキドキしながらもホッと胸をなでおろしたのだった。

ただ一人ご令嬢だけは、むっすりとした表情でエミリーを見ているままだけれど。



「ほらほら皆さん。若いお方に構っていると、バザーに間に合いませんわよ。お手を動かして下さいませ」



ぱんぱんと手を叩きながら急かす先生の声に、ご婦人方は、そうでしたわ、急がないと、と呟いて再び刺繍をし始めた。

解放されたことにホッとしていると、先生が紙をテーブルの上に並べ始めた。



「さて・・・王子妃様、比較的簡単な花の図案を3枚選びましたわ。どれに致しますか?」

「そうですね・・・わたし、これにします」



エミリーが選んだのは、シャクジの花と月の絵柄。

黒地に花と月が映えていて、シンプルな図案の割にとても見栄えがするものだ。



「王子妃様は、やはりこの絵をお選びになりましたわね」

「はい。わたしにはとても思い出深いお花なんです」



それに、あの日は、こんな感じだった。

アランにプロポーズされた、思い出のシャクジの花が咲く草原。

月も綺麗に輝いていたあの夜は、エミリーにとっては大切な想い出の景色の一つ。



「そうですの・・・。では、今ここに、金の綿帽子の絵があれば、どちらをお選びになったかしら?」

「え!?・・先生。金の綿毛って、どうして・・だって、あの場所は――」