「まあ、何でしょう。ちょっと失礼致しますわ。皆様はゆっくりなさってて」



侍従、緊急な用ですの?と言いながら、皇后は部屋から出て行った。


その背中を見送ったあと、それまでずっと澄ました顔でいたご令嬢の瞳がキラリと光り、今がチャンスとばかりに口を開いた。



「まあ、なんてことかしら。頭の中は王子妃様で一杯だなんて。あの“氷”だと比喩される王子様が。とても信じられませんわ。何度お話をうかがっても、意外、の一言ですわね。確かに可愛いお方に見えますけれど、他に、これと言って何の良いところも見受けられませんわ。きっと皇后様は、城の体面を保つためにお話されてるだけですわ。夫婦仲が悪いなんて、民にはとても言えませんものね」



ですから、私はこの目で見ない限り、真偽の判断をしませんわ。

ツンとした口調でそう言って、観察するようにエミリーをじろりと見る。


この場に皇后がいればとても口に出来ない台詞だ。

それに、本人に向かってはっきり言うとは、このご令嬢はかなりキツい性格のよう。



「あらあら。貴女は昔から王子様に憧れていましたものねぇ?」



ずっと抑えていたであろう嫉妬心。

それが前面に出てしまった令嬢の肩を宥めるように抱いて、細身の婦人がそう言うと、ご令嬢は唇を尖らせてぷいっと横を向いてしまった。


こんなところでもアランの人気の程が分かり、エミリーは複雑な気持ちになってしまう。



「私の王子様のイメージが崩れてしまいますわ」



そう言った令嬢の声は少し潤んでいて、ちょっとつつけば涙が零れてしまいそう。

これにより、部屋の中が何とも気まずい空気になる。

その妙な雰囲気を変えようと、ふくよかな婦人が「あの」と声をあげた。



「あのですね。私は、皇后様のお話は本当だと思っていますわ。とても羨ましいことですもの。あ、ねぇ、王子妃様?・・・やっぱり、その・・・夜も、素敵なんでしょう?」

「はい??・・・あの―――夜ですか?」



急に声のトーンを落としてコソッと言った、ふくよかなご婦人の顔をまじまじと見つめ、同じ様に声を潜めて訊ね返すエミリーに、興味津々といった感じで次々に質問が集まった。



「えぇそう。“夜”ですわ。やっぱり、王子様は、何て言いますかしら。その・・・逞しくなされるのでしょう?」

「これだけ愛されているのですもの・・ねぇ?」

「えぇ、そうですわ。・・毎晩、寝かせて貰えないんじゃないんですの?」



そう言って、ずずいっと身を乗り出して、エミリーの反応を見ている。



「寝かせて?ぁ・・・ぇっと、あの、そんなことは・・・たくましいなんて・・・あの」