手伝おうとするエミリーの手を遮り、動く鈴を見てパシパシと猫パンチを仕掛けるシャルルの手を器用に避け、いとも簡単につけてしまった。



「アラン様って、とても器用なのだわ。何でもできてしまうもの・・・もしかしたら、お裁縫だってわたしより上手なのかもしれないわ」



月の雫を外した時のことを思い出してしまい、再び胸がとくんとくんと高鳴る。

いつか、剣の稽古をしているところを見てみたいと思う。

アランの仕事をしているところは、執務室に行った時に少しだけ見たことがあるけれど、剣を持っているところは一度も見たことがない。

たまに、朝早くから自室で自主鍛錬をしているらしい事は知っているけれど。



――他に、いつ、練習しているのかしら――



『エミリー様、お迎えが来ました』



「――はい。今行きます。・・・シャルル、わたしは貴賓館に行ってくるわ。あなたは、暫くの間、お留守番ね?」



エミリーが部屋にいない間は、シャルルは大抵テラスで過ごしている。

猫と一緒に暮らす事に慣れていない、この国の人達。

例え、王子妃の印があるとはいえ、城の中をひとりでうろうろしていると、どんな間違いがあるか分からないので、心配でならない。

アランが通知を出してくれてはいるけれど、城にはいろんな人が出入りするのだ、用心するに越したことはない。



「心配しすぎかしらね?あなたが自由におさんぽできるようになるのは、いつになるかしら・・・」



それまでに、故郷に帰れるかもしれないけれど。


籠の扉を開け、エミリーは「窓をあけておいてね」とメイたちに声を掛け、支度を整えて部屋を出た。

塔の玄関まで行けば王の塔付きの髭の侍従長が待っていた。

「ご案内いたします」と言ったその後に続いて歩いていく。



今日は、この国の皇后であるお義母さまに呼ばれている。

お茶とお菓子を楽しみながら趣味の刺繍をするんだそうで、先日王の塔で一緒に夕食をとった時に、エミリーも誘われたのだ。



『そうそう。聞きましたけれど、エミリーさんも刺繍をなさるのですって?今度集まりがありますの。ご一緒しましょうよ。一人でするよりも愉しいですわ。ね、アラン、良いでしょう?』

『・・・母君が一緒であるのなら、構いません。・・・エミリー、良い機会だ。貴族方との交流も大事なことゆえ、参加するが良い』

『皆さんとても気さくでいい方ばかりだから、エミリーさんも楽しめますわ。早速、段取り致しますわね』


と。うきうきと段取りを考える様子に断れず、急に決まった事だった。

懇意にしている貴族の方たちも一緒らしく、エミリーには初めての集まりの参加で、少し緊張気味。

いつもはゆっくり楽しみながら歩く、貴賓館前の庭も全く目に入らない。


「エミリー様が御出でになりました」



「まぁ、エミリーさん。お待ちしていましたのよ。さぁ、お入りになって」