時は経ち、今は夜更け。

エミリーは刺繍の手を止めて、ふと壁を見やった。

そこには、赤い縁取りのシンプルな丸い時計が掛けられている。



「もう、11時だわ・・・アラン様は、やっぱり、今夜はテントの中で泊まるのだわ」



今の時間になっても、何の連絡もない。

ということは、メイの言っていたことが全てなのだろうと思える。

エミリーは道具を片付けて、もそもそとベッドの中に入った。

婚儀をしてからというものいつでもアランの腕の中にいるので、こんな風に一人で寝るのは久しぶりだ。

シーツがひやりと肌に当たって、思わずぶるると震える。



「こんなに、空いてるわ・・・」



ぽつり呟きながら、いつもアランがいるところを何度もてのひらで摩る。

小さなベッドなのに、やけに広く感じてしまう。



“あら。たまには、一人で眠るのもいいですわよ?”



元気づけるように、メイが言っていたのを思い出す。



「でもメイ・・・やっぱり、さみしいわ」



キシ・・と小さな音を立ててベッドが少し沈んだのを感じるのとともに、シャルルが喉を鳴らしながら毛布の中にもぐって来た。



「シャルル、一緒に眠ってくれるの?きゃっ、まって・・・くすぐったいわ」



お腹のあたりでもぞもぞと動くので、クスクスと笑い声を上げる。

こんな感触、久しぶりだ。

メイの言うこともあながち間違いではないかもと、思いなおす。



「ふだんはアラン様がいるから、えんりょしていたの?」



話しかけながら手探りで顎のあたりを撫でると、シャルルは落ち着いたようでモゾモゾするのを止めた。

お腹がほわほわとあたたかくて、とても心地いい。

けれどやっぱり、アランが与えてくれる安心感とぬくもりには負けてしまう。

無機質な天井を見上げれば、アランの優しいブルーの瞳が思い浮かぶ。



『レオナルド様とルドルフ様も現地で指揮を取っておられます』



あなたは何か知っていますか?と訊ねたら、シリウスはとても辛そうな表情でそう言っていた。

3人もの王子が谷にいるだなんて、余程のことがあったのだろうと感じ、それ以上は何も訊かずにいた。

お出掛けはもう出来なくてもいいから、早く問題が解決することをエミリーはひたすら祈る。

そして、帰ってきたら精一杯に労うことを、改めて決めた。



「アラン様、おやすみなさい―――」



エミリーは谷にいるアランに思いを馳せながら、いつしか深い眠りへと落ちていった。