「・・・メイ?どうぞ」



残念に思ったのを隠しながら返事をすると、開いた扉の向こうから廊下の灯りが差し込んできた。



「あ~やっぱり暗いままですね!エミリー様、申し訳ありません~!!今すぐに点けます!」



心底申し訳なさそうにして、メイはいそいそと灯りをつけて回った。

すみれ色だった部屋の中があたたかな光色に変わっていく。



「いいの。何か、とても忙しかったのでしょう?お疲れさま」

「そうなんです~。急に、お弁当を作って欲しいとのお達しがありまして、今の今までメイドたち総出で作業をしていたんです」

「おべんとう?今の時間に?」

「はい~、何でも“風の谷”で問題が発生しているそうで、視察に出られた方々が戻ってこられないらしいんです。その方々のお弁当ですわ。この離れの警備をして下さっているルーベンの兵士様も応援に行かれるそうで、その方たちの分もですからそれはもう沢山あって四ヵ国のメイドたち皆で協力して用意していたんです。今も、兵士様たちは松明や灯りを用意したりして、もう皆さんバタバタと走りまわっておられますわ。アラン様が戻ってこられないのは、きっと、あちらで指揮をしておられるからですわね」



メイは灯りを点け終わると、お出掛けは明日ですね、残念ですわ~と言いながら、出してあったマントをクローゼットの中に仕舞った。



「そう、なの・・・それは、大変だったわね。でも、それなら、アラン様は何時に帰ってこられるのか分からないわね・・・」



やっぱり何か変化があったのだ。

風の谷とは、常に風が吹いている美しい谷だと習った。

そこで、何があったのだろうか。



「そうですね、テントもお持ちになっていたのを見掛けましたから・・・。もしかしたら、夜通しかもしれませんわ」


「ぇ・・テントも持っていったの?」


「はい。ルーベンの兵士様がギディオンのテントを持っておられましたから、持っていったはずですわ」



テントは、この先の国に行くまでに使用するからと持ってきた大きくてとても丈夫なもの。

それをわざわざ持っていくとは、余程難しい問題が起きたのだろうと思える。

まだ連絡はないけれど、今夜、アランは帰ってこないつもりなのだ。




「そう・・・」

「ですから、エミリー様には先に夕食を召し上がりになるようにとの連絡がありました。後程、こちらにお持ち致します」



そう言うと、メイはいそいそと部屋を出ていった。