「遠いところ、お疲れさんでした。どうぞ、こちらへ。長が待ってます」
案内された先で男が見たのは、ベッドの上に座った、包帯をグルグル巻きにされた賊長の姿だった。
付き添っている手下は、床に膝をつき深く頭を垂れていた。
「申し訳御座いません!」
「ほう・・これは、失敗した、ということかな?貴様ほどの男がそのザマだとは、思ってもいなかったことだ・・・」
「はい。件のお方はかなり手強く、また兵士たちも想像以上に粒ぞろいで。貴方様にはわざわざお越しいただいたのに成果をお渡しできず、真に不甲斐なきことで御座います」
そう言って賊長は、深く頭を垂れた。
手下たちは床に頭を擦らんばかりに下げたまま、微動だにしない。
賊長に巻かれた包帯には血が滲んでおり、かなりの深手を負っていることは、男には容易に分かっていた。
顔色は悪く、息も荒い。
恐らく熱も高く出ているだろうに、それでも気丈に受け答える気概は、流石賊長といったところだ。
常人であれば体を起こすことも出来ない筈だ。
思った以上に、守りは堅く、この旅の為に、出来うる限りの策を講じてきたのだろうと思えた。
―――ギディオン王国アラン王子、流石、隙のない男。
かなり手強い。
だが、この世に完璧な人間などいない。
必ず、穴がある筈だ。必ず―――
「まあ、いいだろう・・・。賊長は、早く傷を癒せ。数日後に、また来る」
男は手下の一人に見送られ屋敷の外に出た。
空に浮かぶ月は、雲に朧な影を映している。
月の祝福を受ける国、ギディオン王国。
平穏で緑豊かな美しい国。
―――我が欲するものは、近くて、遠い。
「まだ、チャンスはある。そう。いくらでも、この国にいる限り―――」
男は燃えるような光を瞳に宿し、拳を強く握りしめて空に掲げた。
―――必ずだ。必ず、この手に。