真っ直ぐ通路を進むと、今度は男性の職員が大きな扉の前に立っていて、この先は薄暗いからと笑顔で懐中電灯を一つ渡してきた
廣瀬さんもありがとうございますと笑顔でそれを受け取ると、職員は扉に手を掛けた
『どうぞ、夢の世界へ』
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曲がりくねった薄暗い道を、懐中電灯を照らしながら慎重に進んでいく
「なんだかお化け屋敷みたいですね」
暗闇で見えないが、恐らく笑っているのだろう繋いだ手から振動が伝わってくる
「廣瀬さんはお化け怖くないんですか?」
「ええ。お化けより怖いものがこの世には存在しますから」
「…例えば?」
「…私の友人ですかね。あの人だけは絶対に怒らせたくないです」
はは…と乾いた笑い声を出す廣瀬さんに、余程酷い目にあったのだろうと内心同情する
「篠原さんはこういうの苦手ですか?」
「いや…お化け屋敷とか入った事無いのでよくわかりません」
家の周りは田園、果樹園、茶畑など
つまり田舎
親は毎日農作業やら畑仕事で忙しく、何処へ連れて行く訳でもなく、こうして都心の大学に通うまでは友達の家か自然の中で遊ぶぐらいしかしなかった
電車を乗り継げばちょっとしたテーマパークに行けるには行けるが、なにぶん時間が掛かるし面倒臭い
昔、修兄が出無精の私を無理矢理連れて遊園地へ行ったらしいが、余程楽しくなかったのか全く記憶になかった
それを話せば、廣瀬さんはうーん…と唸ったあと、「…そうだ」と思いついたような声をあげた
「じゃあ今度は遊園地にでも行きましょうか?篠原さんのお友達も誘って」
「……え?」
思わず廣瀬さんの方へ顔を向けたが、その顔は暗闇のせいでぼんやりとしていた
「勿論、篠原さんが良ければ…ですけど」
クスッと冗談っぽく笑う廣瀬さんに胸がじわじわと暖かくなる
「…良いんですか?そんな事言ったら本気にしちゃいますよ」
「私は何時でも本気で言ってますよ?」
軽やかな口調で言いながら、歩みを止めない廣瀬さん
表情がよく分からない今の状況では、その真意は汲み取ることが出来なかった