「…え?」

ピタ、と立ち止まりキョトンとしてしまった廣瀬さんにいきなり過ぎたかと慌てて言葉を付け足す


「いや…人が多くてはぐれちゃいそうだし…最後まで一緒にまわりたいから…その…駄目ですか?」

「………」

そっと服の裾を掴んで背の高い廣瀬さんを見上げれば、ふいっと目を逸らされた



同時にツキンと痛んだ胸

…やっぱり図々しかった

浮かれてたんだ…私


「…あ…やっぱ今のなしで…っ」

やば…

鼻がツンとしてきた

でもこんな事で泣いちゃ駄目だ

せっかく廣瀬さんの好きな場所に来たんだから、楽しませないと

沈んでいく自分を引き上げるべく出来るだけ明るい声を出して

掴んでいた裾をそろりと離せば追いかけるようにして掴まれた手


誰の手…なんて見なくても分かる

暖かい…大きな手

「あの、廣瀬さん?」

「これなら、絶対にはぐれたりしません」

「……それって」

このまま一緒に歩いてくれるんですか?

前を向いたままでその表情は分からないけど、代わりにキュッと手に力を込められて自然と胸が跳ね上がった


さっきまでの暗い気持ちなんか吹っ飛んで、あったかい気持ちで満たされていく



あーもう…

こんなに幸せでいいのかな



廣瀬さんに手を引かれながら、私は水族館の奥へと足を進めた