僕はその時、タンスにもたれながら母さんと弟と一緒にテレビを見ていた。


 なんの番組なのかは……当時7歳くらいだったせいか、全然覚えていない。


 けれど、真剣にそのテレビを見ていたことは覚えている。


 8時から10時の間辺りにやっていた番組だったから、バラエティー番組だと思うよ。


 番組を真剣に見て、たまに芸能人がやるネタに笑って、楽しかった……はずだった。
 僕が左を向けば、廊下とその奥の父さんの部屋の様子が丸見えなんだけれども。


 ……何故だろうね。


 誰もいないその父さんの部屋から、誰かの視線を感じるんだ。


 誰かの気配を感じるんだ。


 僕はすぐに左を向いて、その視線の、その気配の正体を確かめようとした。


 ……けれども、そこには今いる部屋から僅かに見えるベッドしかなく、誰もいない。


 まあ、当然だよね。


 僕の父さん、その時間は仕事をしに出掛けているのだから。
 気のせいかもしれないと思い、僕はテレビの方を向いた。


 ……でも、またするんだ。


 また感じるんだ。


 誰かの視線を。


 誰かの気配を。


 僕は再び左を向いてその視線や気配の正体を確かめようとしたけれど、やっぱり僅かにベッドが見えるだけで誰もいない。


 疲れているのかな?


 気にしすぎなだけなのかな?


 僕はそう思って再びテレビの方を向いた。


 けどね。


 やっぱりするんだよ。


 感じるんだよ。


 視線と、気配。
 もういい加減にしてくれよ。


 誰にとは言わずに僕は心の中でそう思った。


 面倒臭いと感じながらも、僕は父さんの部屋を見る。


 いない。


 誰もいない。


 やっぱりただの気のせいか。

 やっぱりただの思い込みか。


 僕は小さく溜め息を吐いてからテレビの方を向いた後、すぐに父さんの部屋を見た。


 有無を言わさないように、視線や気配を感じる前に、素早く父さんの部屋を見た。


 いた。




 タンクトップの白いワンピースを着た、足ぐらいまでの長さのある髪をした女性が、いた。


 全体的に白銀っぽい色で包まれている女性が、いた。


 父さんのベッドの横に立ち、ジィーっと僕を見ていた。


 見詰めていた。


 真っ直ぐと。


 虚ろな目をして。


 僕はすぐに顔をテレビの方に反らした。


 ……なんだったんだろう。今の人は。今の女性は。


 たったの数秒しか見ていないのに、頭の先から足下まで頭の中に焼き付いているその女性。


 僕の心臓は、大きく脈打つ。