✳︎side家康✳︎
「何?海里が離反しただと?」
俺は浜松城の自室で半蔵の報告に耳を傾けていた。
「はい…。真田に捕らえられた際に''縛術”を解かれたようで……。」
それは予想範囲内の事であったが、こんなに早く離反されたのは少し痛手だ。
「ちっ……。まぁ、もう一方の術は破られていないんだろ?」
「ええ。」
「ならまぁいい。」
こういった慣れた口調で話すのも半蔵の前だけ。
他の連中に聞かれたら面倒な騒ぎになるだろうからな……。
かれこれあれから数年___
まさかこんな時に''あいつ”が現れるとは……。
真田の元に現れた少女___
これもあの老人が教えた''運命”なのか……。
「半蔵。」
「はっ。」
「あと三月後だ。その日にやり遂げなければならない。……分かってるな?」
「御意。」
半蔵の表情は変わらない。
さすが伊賀の中でも優秀な忍だ。
だが、俺には分かる。
変わらない表情の奥に強い意志があること。
そしてその意志を果たすと___
「こっちから仕掛けてみるか……。」
障子を開け、海からの風を感じながらそう1人で呟く。
『殿!こちらにいらしたか!』
その時小姓が1人眉をひそめながらこっちへ向かってくる。
「おお。何かあったか?」
『何かあったか? じゃありませぬ!薬の調合を途中でやめてどちらへお姿が見えないので心配したのですぞ!』
「はは。それはすまなかったなぁ。すぐに戻る。」
『必ずですよ!』
そう言って去って行く小姓。
これが俺で、儂。
____徳川家康だ。