その日の戦闘は終わって夜を迎えた。

幸村や信幸様、そして矢沢様も既に城内に引き揚げてきている。


被害は少なかったみたいだけど……。

それでも戦に〝死〟は付き物。

死者ゼロとはいかない。


私はなんとも言えない複雑な気持ちで櫓の上で星を眺めていた。


「真琴、ここにいたのか。」

「幸村……。」


幸村が櫓を登ってきて私の隣に座る。

ふと幸村の腕を見れば包帯が巻いてあった。


「幸村怪我したの…?」

「ん?あぁ、こんなの怪我に入らない。矢が掠っただけだ。」


そう言って幸村は微笑んでくれるけど……。

私は無力感を感じられずにはいられなかった。


「本当、私って何も出来ないなぁ…」

「何を言う、兵の手当てをよくやっていたじゃないか。」

「兵の手当ては私は傷つかない…。幸村だって足軽の皆だって傷ついて守ってるのに……。」

「真琴……。」

「うぅっ…ひっく……」


我慢していたけどもう限界だった。

私は泣いた。


今まで人前で泣かないようにしてきたけど。

無力な私を思い知って、そんなわけにはいかなくなった。

幸村がいるのに。

弱いところを見せたくなかったのに…。

袖で拭っても止まらない。



その時だった。





気付いた時には幸村が私を正面から。

顔を覆うように抱きしめていた。


「ゆ…幸村……?」

「守れてない。俺は守れてないんだ……。」


__ぎゅうっ


抱きしめる力が強くなる。


「俺は真琴の心が分かってやれる訳じゃない。いつも何かに傷付いているのが分かってるのにな……。だから……」


少し抱きしめる力が弱まった。

そしてゆっくりと言葉を続けた。


「戦の時だけでも守らせてくれ…。俺の傷なんかより真琴はもっと傷付いているんだから……。」


あぁ。

私は逆に幸村を困らせていたんだ……。

私が1人で抱え込んでいるのがわかるから。

幸村は私を心配してたんだ………。


「ゆ…幸村……。」


落ち着ききれてなくて、声が震えているけど。

もう私は無力だとは思わない。

お互いに思っていたことは同じなのだから。


「………ありがとうっ……。」

「おう。安心しろ……。」


自然と涙は止まっていたけど。

幸村は朝までこのままでいてくれた。