戦に備えての会談も終わって、とりあえず路炉の間を出る。


昌幸様によれば、既に先鋒部隊は織田軍と交戦していて昌幸様の叔父・矢沢頼綱が戦っているという。

明日には矢沢さんもここに引き返してきて、敵が目前まで迫るらしい。

それの対策についての軍議。


私は初めての〝戦〟とうこともあって城内で負傷者の手当てや兵糧の準備を任された。


一方、海里__才蔵は戦忍として働いてもらうという。


私にも何か経験でもあれば役に立てたのに……って思う。


昌幸様は『大した戦ではない。真琴にはもっと大舞台を用意してやるわ!』と豪快に笑い飛ばすし……。

昌幸様は勝つ自信が大いにあるみたいでよかった。


「今日はもう寝ようかなぁ〜。」


なーんて独り言をいいながら与えられた自室に戻ろうとした時、縁側に腰を掛けている沙江さんの姿が目に付いた。


「沙江さん、どうかしたんですか?」

「あら?てっきり幸村様と一緒かと思ったけど?」

「幸村は戦仕度に追われてるみたいで。」

「そう。私は特に何もないわよ。ただ__」


沙江さんは中庭を眺めながら遠い目をして。


「懐かしい名前を聞いたから、ね。」


懐かしい名前?

それってもしかして__


「才蔵って名前ですか?」

「ええ。真琴には言っておこうかしら。」

「へ?」


沙江さんは私の方へ向き直る。


「才蔵__霧隠才蔵は私の恋仲だったの。あいつは真田忍一の実力を持っていたわ。」

「……」

「でもあいつは真田忍を守る為に死んだ。本当に馬鹿な男だった。」


私は黙って話を聞いていた。

また沙江さんは中庭に視線を戻して話を続ける。


「海里はどこかあいつに似てるの。真っ直ぐで芯が強い……だから才蔵の名を彼に預けた。それだけよ。」


そうだったんだ……。

だから昌幸様は沙江さんの一言で決めたんだ。

すごく切ない……私には到底できるような事じゃないよ。


「それに、忍が死ぬのは当たり前。道具だもの。だから何も考えてないわ。」


沙江さんからの冷たい響き。

沙江さんの表情はまるで氷の様で。

感情を閉じ込めている様にしか見えなかった。

これが忍___


でも……何か間違ってる気がする。


「沙江さん、それは違うと思います。」


沙江さんは私の方を向いて少し驚いた顔をしていた。