〜路炉の間〜
「昌幸様、失礼します。」
「おう、やっと来たか!入れ、入れ!」
昌幸様の豪快な声。
相変わらずだなぁ……。
そう言われて私と海里は深々と頭を下下げて入る。
沙江さんは天井裏で待機している。
部屋に入って囲炉裏を挟んで昌幸様の向かいに私達は座った。
「ほう。お前が例の真琴の幼馴染という……」
「はい。黒澤 海里といいます。ご迷惑を掛けた様で申し訳ないです。」
海里は座ったまま深々と頭を下げる。
普段は口が悪いけど目上の人に対しての礼儀はなっている。
普段もそうして欲しいんだけど……。
「既に起きたことはわかっておるようだな。術の内容は沙江から聞いておる。」
「昌幸様には多大な迷惑をお掛けします……。」
「して…お主は忍術の心得があるようだが?」
「はい。こう見えても一応忍の末裔なんで。それも狙われた理由の一つだとおもいます。」
昌幸様は通りでといった感じで頷いているが、私は驚きを隠せない。
そんな話初耳なんだけど⁉︎
「初耳だよそんなの!」
「忍の掟で言えなかったんだよ!悪く思うなって!」
これは海里に問いただす事がたくさんありそう……。
後で聞くしかないなコレは。
そう1人で決心。
「それなら都合が良い。今は人手が足りなくてな。忍として仕えんか?真琴の幼馴染となれば信用もできよう。」
「お役に立てるならなんでも構いません!」
「よし。決まりだ!」
昌幸は満足そうに頷く。
「でもいいんすか?大将。」
その声と同時に幸村の横にスッと佐助さんが現れる。
「なんだ、佐助よ。」
「海里って名前は敵方の忍って事で通っちゃってますよ?」
「ふむう……。」
確かにその通り。
いきなり敵方の忍が味方と言われても納得いかないのが当たり前。
「父上、通り名を変えてみては?」
ずっと黙っていた幸村がふと提案。
昌幸様はそれだ!と言わんばかりに手を打った。
「その手があったのう!そうだな……何か良い名はないか?」
「平次とかどうでしょう?」
「兄上、それは犬に付けていた名では……。」
「気のせいだ、源二郎。」
信幸様が提案してみるけど、犬の名前って……。
天然なのかな⁈
「父上、才蔵の名を継がせてみてはどうでしょう。実力も伴っていると思われます。」
幸村はそう提案する。
「才蔵の名を、か。」
その提案に昌幸様は少し迷っているようだ。
「私は賛成するわよ。」
___スッ
沙江さんが天井裏から私の横に舞い降りる。
「ほう、沙江が賛成とは珍しい。」
「海里はなかなか骨のある男でもある。何も問題はないと思うわ。」
「そうか……。」
沙江さんの言葉で昌幸様は決心した。
「よし、海里。お主は今より霧隠才蔵と名乗れ。皆もそう呼ぶように!」
「「御意!」」
こうして海里は霧隠才蔵として真田家に仕える事となった。