✳︎side小山田信茂✳︎

「殿!岩殿まであと目と鼻の先です!」

「あぁ……。」


躑躅ヶ崎館を出、最速の進度でここまでやって来た。


全ては計画通りに行く予定だった。


だが……

真琴どのに進軍の一時止められるとは予想外であった。

そして、お館様に掛けられた術が一時的に弱くなったこともだ。


お館様は真琴どのと密会して何か意志を伝えた様だ。

それはそれで喜兵衛の…真田の生き残りの道を開くに違いない。


俺にとって幸運な事だったのはお館様はその後も岩殿へ行く事を変えなかった事だ。


これで岩殿の民は守られる……。


「皆の者、よく聞け。小山田隊全軍反転。……後方部隊を殲滅せよ。」

『と、殿⁈後ろにはお館様が……』

「殲滅せよ。」

『ぎょ、御意……!』


俺の殺気に恐れをなした兵達がお館様の部隊へ突撃していく。


__近くまで迫っていた織田軍との挟み撃ちとなったお館様の部隊は間も無く殲滅できるだろう。

これで約束通り織田信長は岩殿の民には手を出さないはずだ。



喜兵衛には悪かったな……

でも俺の選択は間違っていない。


俺は俺なりに民を守ったのだ。

後悔はない。


そして……

申し訳ありませぬ…お館様……。