私は幸村の待つ軍列の真ん中の辺りに戻った。
幸村の後ろには真田家の家臣・足軽達が控えていた。
「真琴!」
戻った私に駆け寄る幸村。
幸村の顔を見た途端、緊張の糸が解けたかの様に堪えていた涙がポロポロと流れ出す。
「真琴⁈」
「ごめんね……勝頼様を…武田家を守れなかった……!」
そんな私を幸村は責めなかった。
逆に優しく微笑みながら。
「そうか…。でも自分を責めるんじゃない。これは勝頼様の意志なのだ。それに何か考えがあってのご決断だろう?」
そう。
勝頼様は真田家を残すために最後に私に命を下した。
今は泣いている場合じゃない……!
「……うん。私ね、勝頼様と大切な約束…というか使命を与えられたの。」
「使命?」
私は袖で涙を拭うと後ろに控える真田家の皆さんにキッと鋭い視線を向けて。
「幸村様が家臣真琴、勝頼様より預かりし伝令を伝えます!」
そして大きく深呼吸して。
「真田隊、及び真田幸村は急ぎ岩櫃城に向かえ!入城し、昌幸様の援護をせよ!」
幸村は全てを悟ったみたいだった。
拳をギュっと握り悔しそうな表情を見せたが、それもほんの一瞬。
すぐに指示を飛ばす。
「真田隊総員に下す!俺に続け!急ぎ父上の元へ向かう!!!」
『応!!』
手綱を取り進軍方向とは反対へ駆け出す幸村。
その直後を私が追い、さらにその後を真田家家臣、足軽が走る。
誰も疑問を持つ人はいなかった。
真田家の皆はやはり聡かった。
全てをわかっているのだ。
なぜここを離れるのかも。
ここを離れたら武田家がどのような運命を辿るのかも……
途中、武者狩りの集団に何度か襲われたがそれも佐久まで。
佐久を過ぎれば真田の息のかかった土地。
無事に帰ってきた幸村一行を喜んで迎えてくれた。
そして岩櫃城に着き、昌幸様に今までの過程を話す為、『地炉の間』と呼んでいる昌幸様の別室へ幸村と向った……。