馬を降りて立ち止まっていると1人の足軽大将が脇にある森の中へ案内してくれた。

大きな木の木陰に勝頼様が背を預けているのが見えた。



「真琴と2人で話がしたい。そちは下がれ。」

『承知。』


案内してくれた足軽大将を下がらせると手招きをして私を呼んだ。


「勝頼様……⁈」


私は近くで勝頼様を見て驚く。

ただ馬に乗っていただけとは思えないほど勝頼様は疲労していた。


「真琴、1度しか言わぬからよく聞け。」


進言をしに来たのは私なのに何故か私に語りかける勝頼様……。

一体何があったの……?


「儂は昨晩に何者かに術を掛けられ操られていた。今は何とか呪縛に打ち勝っている状態だ……」

「術……⁈」


幸村の予想通りだった。

様子がおかしかったのは勝頼様が術を掛けられていたからだったんだ……!


「この状態も長くは持たぬ……真琴に命を下す……」


苦渋の表情を浮かべながら下された命に私の頭は真っ白になった。


「勝頼…様……?今何て……」

「真田家家臣団は今すぐ岩櫃城へ逃れよ……!」

「無理です!ここで兵力が減ったら武田家は滅んでしまいます!」

「もう、いいのだ……武田は滅ぶ運命にあるのには…変わり…はない…」


勝頼様の息が上がってる。

もう限界なのかもしれない……

それでも私には受け入れ難い命だった。


「真田家臣団だけ逃げる訳には…!」

「何を言っておる……真田家は武田の親戚筋ではなく外様……最後まで尽くす必要など…ないのだ……」

「しかし……!」

「それに喜兵衛には苦労を掛けた……後は自由に生きるべきだ……頼む、真琴」


あぁ……この方は優しすぎたのだ。

気が荒いと言われてる武田勝頼は優しい方……。

私は長篠の戦い以後にここに来たからわからないけど……

長篠の戦いの裏にもきっとこの優しさが足を引っ張ってたのかもしれない。


昌幸様の忠誠心がわかった気がした。


「真琴に…する最初で…最後の命だ…聞いてくれるな……?」


『聞いてくれるか?』とは聞かなかった。

出来る人しか必要としない。


昌幸様との会話を思い出した。


そう、あの時と同じ__


私は涙をこらえながら


「承知しました……!」


深々と頭を下げてその場を後にした。