目の前に立ち塞がる黒装束の忍。

長身で短髪の茶髪……切れ長の目。

間違える訳がない。


「海里……っ!」

「お前に名前を呼ばれる筋合いはない」

やはりこの前と同じでどこまでも冷たい。

殺気は途切れることを知らない。


「海里、思い出してよ!私、海里となんか戦いたくない!」

「黙れ。」


__ザッ

海里が投げた手裏剣が私の頬をかすっていった。

頬か血が流れる。


動きが早すぎて手裏剣を出すところすら見えなかった……。

海里は私達と戦う気だ……


戸惑う私を見下すような目で見る海里。

「お前は殺さない……生け捕りしろとの命が下っているからな。勘違いするなよ?」

「何で私を狙うの⁈」

「知るか。俺は命令に従うのみだ。」


そう言い終わる前に海里の姿が消える。

「どこに行ったの……⁈」


___ギンッ


目の前で幸村が抜刀したかと思うと幸村の刀と忍刀がぶつかる。

忍刀を振るうのはもちろん海里だった。


「忍の速さについてこれるのか。」

「当たり前だ。俺は忍を従える者だからな!」


___ガッ


幸村は海里ごと押し返し、海里はそのまま距離をとって構えた。

私を庇うように立った幸村は、視線を海里から逸らさずそのまま私にはなしかける。


「沙江から報告は聞いていたが……あれが真琴の幼馴染みか?」

「うん…。でも海里は記憶がないみたいだし……何故か徳川にいるの……」

「そうか……厄介だな……」


幸村は厳しい顔付きになる。


「油断してると死ぬぜ。」


その間にも幸村との攻防戦は止まらない。

でも明らかに幸村は防御しかしていなかった。


「手加減してるだろ。死んでも知らねえぞ。」


海里の攻撃が一層激しくなる。


幸村は海里を傷付けないようにしてる…!

でもこのままじゃ幸村が危なくなる…!


この二つの矛盾が私の正しい判断を妨害していた。



「くっ!」

海里の奥の方では沙江さんがもう1人の忍と戦っている姿がみえる。

怪我をしている沙江は明らかに不利だった。


私のせいで……!

みんなが……!


私は耳を両手で塞ぎ膝にうずくまる。

現実が受け入れられない。

受け入れたくない。

私には何も出来ない……。



私は闇に呑み込まれかけていた。