✳︎saide勝頼✳︎

あの真琴という娘……

なんとも不思議な女子であった。

未来から来たと言っていたが、きっとそれだけでは無かろう。


喜兵衛とその次男坊は良い者に出会ったな……。



___スッ


背後に誰か来たが……。

儂の草(忍のこと)ではないな……。


「何奴だ。」


儂はそやつに背を向けたまま問う。


「さすが武田当主……自分の手駒と区別はできるか……」

「何奴かと問うている。」

「まぁ教えてやろう……俺は服部半蔵」


その名を聞いて己の危機的状況を悟った。


裏で手を引いていたのは徳川だったか!

迂闊にも草の大半を喜兵衛に付けてしまった。


そう考えながらも隣に置いておいた脇差に手をかける。


「俺は仕事をするのみ……」


半蔵が一瞬にして真後ろまで来たのが分かる。


「……さらば武田勝頼。」


そして儂の肩に手を掛けた。


………今ぞ!


思いっきり脇差を鞘ごと後ろに振り回す。


__ドスッ


重たい音と共に半蔵が後ろへ飛ばされる。


「ちっ……なんて馬鹿力だ…」


全体を黒い忍装束で身を包んだ半蔵は少しよろめきながら立ち上がる。


「儂も武士……甘く見るでない。」

「そのようだな……だが次は無い。」


__ザッ


音と共に目の前に現れる半蔵。

脇差の鞘を抜き放ち、突き付ける忍刀を弾きそのまま斬りつける。

……が、斬りつけたのは木であった。


「なかなかここまで手こずらせた大名はいなかったぜ……」


そう耳元で聞こえた時には半蔵に肩を掴まれそのまま後ろに倒されていた。

「今は命は奪わない……せいぜい捨て駒になる自分を見てな。」


半蔵は儂の額に手を当て術をかけた様だ……。


意識が遠退く……


すまぬ……喜兵衛……。

そして真琴……。