✳︎side信茂✳︎

「あぁ……このままでは……」

私は自分の屋敷に帰るや否やすぐに自室に籠った。


まさか半蔵殿のいう『未来から来た女子』が説得の場に現れるとは……


お館様は賢いお方だ。


あの女子の話が本当であり、岩櫃へ行く選択肢が正しいと判断するだろう。


しかし……

そうとなれば我が小山田家は織田との盟約を破ったと見なされてしまう……!


このままでは小山田家は…岩殿の民が殺戮の対象になってしまう……!


「小山田……どうやらお困りのようだな。」


いきなり後ろで男の声がした。

驚いて振り返る。

「半蔵殿……!」


織田家との連絡役の忍・半蔵殿がいた。

例の計画が上手くいったのか確認に来たのだろう。


そう……

お館様を岩殿城へ入城させる直前で織田軍と挟み撃ちにする。


小山田家……岩殿の民を守る唯一の方法。

私は守るために織田との手を取った。


「勝頼は岩殿へ入るのか?」

「いや……まだはっきりとは……」


色良い返事がもらえなかったことを悟ったのだろうか。

半蔵殿はニヤリと笑って驚くべき発言をした。


「では俺が勝頼を岩殿まで導こうではないか。」

「何……⁈」

「半蔵殿、お館様に何をする気だ?」

「そんなことを言ってる余裕はないだろう?まぁ、任せておきな……」

「……。」


__パシュッ

半蔵殿はまた闇へ消えていった。


私の判断は正しかったのだろうか……

それはまだわからぬ。

だが。

喜兵衛…お前とは明らかに違う道を進んでいる。

こんな日が来るとは思っていなかったよ……


障子を開けると日は山に沈んでいた。