「では勝頼様、岩櫃での……」

私が再び説得にかかろうとした時だった。

「お館様、新府で籠城なさらないならば岩殿城へお入りなさいませ。」


しばらく黙っていた信茂が口を挟み始めた。


「岩殿か……」

「はい。岩殿は武田家の直轄の支城であり、天然の要塞を備えておりますれば。」


「そうよな……」


やばい。

このままだと勝頼様は岩殿城に行く途中で信茂に裏切られて……

武田家の滅亡に………!


「勝頼様、岩殿ではなく岩櫃へお入りください!」


私も負けじと岩櫃城での籠城を提案する。


「岩櫃城か?」

「はい!岩櫃も自然の要塞を持っています。なにより上杉領が近いです。援軍を望めばすぐに到着します!」

「そうだな……」


私の説得は理にかなっている。

信茂もそれはわかっているようで苦虫を潰した様な表情をした。


「うむ…両者の意見はよくわかった。」


勝頼様がゆっくりと告げる。


「儂に1日の猶予をくれ。明日の朝には答えを出そう。」


こうして私と昌幸様は新府城を後にし、真田屋敷に戻ることになった。