私と昌幸様は侍女に案内されて謁見の間に向かう。


「真琴は緊張しないのか?」

「あっ……そう言えばしてませんね。」

「忘れるものなのか?」

昌幸様はハハハ!と大声で笑う。


「お恥ずかしながら本当に忘れてたんです!」

私は顔を真っ赤にして答えた。


「そんな話をしている間に着いたぞ。」

「ふぇ?!」

「今頃緊張してきたか!」


そして、二回目の豪快な笑い。


うわー!もう恥ずかしい!


「それでは行くぞ?準備はよいか?」

「………はい!」


私の返事を聞くと、昌幸様は堂々と謁見の間に入っていった。

私も綺麗な姿勢を意識しながら昌幸様に続く。

そして、座って頭を下げる。


「よく来たな…二人とも面をあげよ。」


凛とした声が響く。

響くと言っても大きな声を出しているわけではない。

よく通っているのだ。

私はゆっくりと上座に座る人物と視線を合わせる。


ガッチリとした肩。

大きな瞳。

その目からまだ覇気は完全に失われていなかった。


………もっと覇気が失われてるかと思ってた。

さすがは武田家当主だなぁ。


勝頼様の方も私を上から下までじっーと見ていた。


「……喜兵衛、この女子は……」

「先日より我が二男、幸村に仕えております。」

「………その方、名は?」

「……森川真琴と申します。」


名乗ったあとに軽く頭を下げる。

「ほう……」

勝頼様は私の存在が不思議でならないようだ。


「喜兵衛、この女子が連れなのか?!」


勝頼様の一段下の端に座っていた青年が驚きの声をあげる。


「信茂、いかにも。」

「そっ、そうか……」


信茂と言われた青年はどこかオドオドしているみたいだ。


さっきまではキッチリしてる感じだったのは気のせい……?


そんな風に思っていると、信茂さんを見つめてしまっていたようだ。


「私に何か?……あぁ!私名乗っていませんね。」


信茂さんは私の方に向き直って姿勢を正す。

「私めは小山田信茂と申します。以後、お見知り置きを。」

そして、微笑みかける。


___この時私は思い出した。


あの、どうしても思い出せなかった事を。