その名前を呼ばれた青年はかなり驚いたようだった。


「なぜお前が俺の名前を……」


その一言に私も驚く。

「海里…?私が分からないの……?!」


海里だって私の事を忘れる訳がない。

小学校からの幼馴染みだし……

まさか……海里には記憶がない?


「お前なんて知らな……」


海里はそう言いかけ突然頭を押さえ始めた。


「?!海里?!」


「くそっ……なんだ……これは……っ」


顔を歪めながら頭の右側を強く押さえている。

私はいてもたっても居られず、海里に近寄ろうとする。


「近寄るな……っ!……殺すぞ……っ」

「…………っ」


海里の私を見る眼は殺気を帯びていた。

あまりの殺気に動けなくなった。


本当に覚えていないみたい……!


「真琴‼︎」


その時、騒ぎを聞き付けて沙江さんが私のもとに来てくれた。

そして海里に向かってクナイを数本投げ付ける。

海里はそれを後ろに飛び跳ね、かわすとそのまま屋敷の外へ出ていった。


「気付くのが遅くてごめんなさい?大丈夫だった?」

「はい。大丈夫です」

「アイツ……最近噂の若い徳川忍ね……。」

「最近……っていつ頃からですか?!」


私があまりにも真剣に迫ったので少し驚いた沙江さんだったが、すぐに答えてくれた。

「そうね……2週間くらい前かしら…」


___2週間前……

私と同じ頃にこの時代に来ていたと言うことになる。


「真琴、あなたあの忍を知っているの?」

「………私の幼馴染みです。」


私は遠くを見ながら答える。


「?!……じゃあ真琴と同じ未来人…」


無言で頷く私。


「私、ようやく繋がりました。なぜ織田軍が私が未来人だと知っていたか……」


言いたいことの続きは沙江さんも言わなくとも理解してくれたようだった。


「幸村様に報告してくるわね。真琴はもう休みなさい?」

「はい。」

「勿論、部屋まで送っていくわ。」


苦笑いしながら沙江さんは言った。

私がこんなところに居た理由はお見通しだったみたい。


「あ……ありがとうございますっ」


恥ずかしさのあまり耳まで熱を帯びてしまった。



その後は沙江さんに部屋まで送ってもらい、すぐに寝た。


___月明かりの夜は更けていく……