*side幸村*
「佐助、父上への進言の話はどうした?」
「それがだけどな…お館様には同じことを進言したそうなんだ。」
「そうか……で?」
「だが、お館様は聞く耳持たずらしい。」
やはりな……
父上のことだからお館様に進言はしているとは思ったが…。
お館様は聞く耳持たず、か。
このまま何度も同じ進言をしても変わらない事ぐらい誰にでも分かる。
父上は何を考えているんだ……?
「あ、そう言えば…真琴ちゃんを襲ったのは織田軍のヤツだとさ。」
佐助が思い出したように言う。
「織田……?」
いや、違う……直感的だが。
名目上織田軍の者だ……真琴を拐って情報が欲しかったなら辻褄(つじつま)があわない。
新人の真琴を拐っても情報はそんなには得られないからだ。
「織田じゃない……」
「え?!じゃ誰だよ。」
そこが問題だ。
織田軍であって織田の者ではないヤツ…
その言葉を頭の中で繰り返しているうちに1つの答えに辿り着く。
「………徳川家康。」
佐助はその名を聞いて一瞬目を丸くしたが、すぐに納得した様だった。
「なるほどな…あの狸の野郎か。」
「そうとなれば忙しくなるぞ、佐助?」
「あいよ。そっちは任せとけ!」
やっぱり佐助は頼もしい。
俺はいい相棒を持ったもんだ。
__スっ
「あの若様、夕食の仕度が整いました。」
襖を開いて侍女が告げる。
「分かった。すぐ行く。」
侍女を下がらせる。
「さーて、飯だ。」
俺は 一人呟いて、部屋を出た。