*side??*

俺は久し振りに帰ってきたこの城の中をゆっくりと歩いていた。

夕陽が城の中を赤く染めていて美しい。

何処からともなく潮の香りが漂う。


やっぱりこの感じが落ち着くな…


その時、ある部屋から話し声が聞こえた。


「なに?取り逃がした……?!」

「はっ……申し訳ございません…」


この声は…家康様と半蔵様……?

家康様の部屋でもないあえてこの部屋での話…密談か?


俺は少し離れた場所で話を聞く事にした。

半蔵様は気付くだろうけど。


「何故だ!女一人連れてこれないのか!」

「失敗した者については厳しく処罰いたしましたが…申し訳ございません」


ひたすら半蔵様が頭を下げている様だ。

それにしても、女……?

あの家康様が女を連れて来いなんて…。

何か訳ありの女みたいだな。


「そもそも何故其奴も生きておるのだ!」

「それは…」

半蔵様が言葉に詰まる。


「……どう考えてもからかわれているではないか!!」

「は、はぁ…」

「あの真田め……!!」


__ガリガリ……


あぁ始まった。あの癖。

家康様は怒りが収まらないと爪を噛む癖がある。


相当、怒り心頭の様だな。


「半蔵!次は何としてでも連れて参れ!!」

「はっ。承知いたしました。」


__どんどんっ


やべっ!家康様が部屋から出る!


俺は慌てて近くの部屋に隠れる。


__どんどん…とんとん…と…と……


ふぅ。通り過ぎたみたいだ。

それにしても……真田って言ってたな。

真田の女。

何者なんだろうか……


「海里(カイリ)。居るんだろ?」

「あっ…半蔵様…っ」


部屋の障子越しに半蔵様に声を掛けられた。

流石に半蔵様には気付かれてたよなぁ。


(小半刻後[約30分後]に俺の所に来い。)


半蔵様は忍同士じゃないと聞き取れない小声で指示を出した。


(はっ。分かりました。)


俺の返事を聞くと半蔵様は音もなく姿を消した。