~真田屋敷・昌幸様の部屋にて~
この部屋には昌幸様、幸村、私の三人。
「悪いなぁ、敵を呼び寄せる餌にしてしまって」
昌幸様の呑気な笑い声が響いた。
こっちは笑い事ではない。
まぁ、それだけの自信があっての笑いかもしれない。
「もう!仕えることが正式に決まってすぐは無いですよ!」
笑い事ではないと言いつつも、自然と笑みがこぼれる。
「見直したぞ、我が策略を理解するとは。」
「へへ♪」
昌幸様の策略が理解出来た事。
それがたまらなく嬉しい。
ちょっと幸村にも褒めてもらいたくて、チラッと横目で見る。
……が、幸村は怒っている様でフイっと目を逸らしてしまった。
私、何かしたかな?
さっきから何か言いたそうにしている。
昌幸様もそれに気付いたようだ。
「幸村、言え。」
そう言われると、渋々口を開いた。
「父上…なぜ真琴に無茶をさせたのです!」
「ほう……。」
「囮であるなら俺で十分だったはずです!」
幸村の顔は今までに無いくらい怒りに満ちていた。
父親に歯向かうなんて何があるかわからない。
下手に怒りを買ってしまえば、出家しなければならない事だってある。
__幸村は私の事を心配して……。
私はその気持ちだけでも十分だった。
これ以上親子の溝を深めてはならない。
私が止めなくちゃ。
「幸村、ありがとう。だけど、私は家臣だから仕方の無いことだってあるから。」
「真琴……。」
まだ怒りは収まらないようだったが、幸村は黙った。
「だが幸村よ。おぬし、まだ分かっとらんのぉ。」
昌幸様の笑った声が再び響いた。