「さぁて、屋敷に戻るか。本題は中で話そう。」

そう言って、昌幸様は笑顔で城に戻り始めた。

幸村も後に続く。


何かおかしい。

だったら、最初から中で話せばよかったのに。


__謀略めいた匂いがする。



「あの…昌幸様?」

「ん?何だ?」


昌幸様は相変わらず笑顔で返事をする。


「これって、なにかの…」


__シュカカッ!


“策略ですか?”と聞く前に何かが飛んできた。

これは忍の使う苦無?


その先には玉ような布で巻かれたものがついている。


__ボムッ


玉はいきなり爆発し、白い煙が辺りを包んだ。


「けほっけほっ…煙玉?!」


気付けば、幸村達の姿が見えない。

煙の量が多いんだ……!


必死に幸村達の姿を探す。

やはり、煙が邪魔で人影すら見つけられない。


「貴女が未来から来たと言う小娘ですね?」


ふと、後ろで低い男の声がした。

幸村の声でも、昌幸様の声でもない。

しかも、言葉にはまったく感情が感じられなかった。


「……あなた忍ね?私に何の用?」


その場に立ち止まり、後ろを振り向かず訊ねる。

その方が虚勢を張ってられる気がしたから。


「貴女を連れて来るように言われたのでね。」

「……織田側の者ね。」

「ほう……なかなか切れるみたいだな…」


そんな会話をしつつ、その忍は近付いてくる。

私は、着物の袖に隠しておいた短刀を握った。


一瞬だけ隙を作れれば…!


今の私の腕前じゃ戦うなんて無理がある。

今はこの場から逃げる事が最優先だ。


__ザッ


忍が真後ろに来たようだ。

覚悟を決め、高速で体はごと振り向き短刀を前に突きだす。

短刀は忍の腹に突き刺さった。