私は上田城の門であったことを沙江さんに話した。
沙江さんの手には真っ白になった“真田三代記”。
何で真っ白なのか……
考えられることは3つ。
1つ・歴史に関わる物は時代が拒んでいる可能性。
2つ・歴史を変えられることを意味している可能性。
そして3つ・すでに歴史が変えられている可能性……。
1つ目はかなり有効だと思う。
だけど、さっき試しに音楽プレイヤーが動くか確めたのだが、ちゃんと無事に動いたのだ。
矛盾している。
2つ目はあり得ないことではない。
しかし、何より一番恐れているのは3つ目の可能性。
今の時点で歴史が変わっているとしたら…私の知識は生かされないのだ。
ましてや、幸村たちになにが起こるのかさえ分からない。
勿論、この予想は沙江さんにも話してある。
「本当に真っ白ね……」
沙江さんも不思議そうに真田三代記を眺めている。
「幸村たちに迷惑は掛けたくないんです。」
「……まだ歴史が変えられていると確定した訳じゃないわ。大丈夫よ。」
優しく微笑む沙江さん。
思わず泣きそうになった。
本当は怖い。
一人でこの時代に迷いこんでしまって…
自分の存在が歴史を、幸村達の運命を悪く変えてしまう気がした。
「沙江さん…私…どうしたら……」
「自分に出来る事をしなさい。それだけでいいの。」
私に優しく語り掛ける。
いつも不思議だ。
沙江さんの言葉は何か術がかかっているかの様に安心感をもたらす。
「………はい。」
『真琴どのー!待たせてすみませぬ!』
『兄上、お茶、お茶!気を付けてください!』
店の中から、二人の声がした。
「じゃ、私はこの場を失礼するわ。」
__シュッ
沙江さんが再び姿を隠す。
__幸村と信幸様は何も知らない。