車の中から
ぼーっと外を見ていると
前方にずっしりと地面から
力強く伸びている
大きな桜の木が見えた。

桜の花びらがハラハラと
散っている中に
木の幹に手を当てて
桜の木を見上げてる男の人を
見つけた。

あまりにもその光景が
美しくて私は感動していた。

「あっ・・・」

桜の木の横を通りすぎる
一瞬にその男と目が合った。
そんな気がした。

「なみ?どしたの?」

車のミラー越しに
母は不思議そうに
私を見ていた。

「ううん
なんでもないよ」

私は慌てて答えた。

あの瞬間
通り過ぎた時の一瞬で
目が合ったかどうかも
確かでもないのに
私は名前も何も知らない
桜の男の子の姿が
頭から離れなかった。