森の中に道らしい道はなく、いわゆる獣道だった。
あたしの背丈を少し超えるほど伸びた雑草が行く手を遮っていて、一歩進むたびに顔に草が当たって痛い。
「ひでぇ道だな。一面緑一色だ」
「森は基本緑だろう」
「それもそうですけど、花の彩りどころか木の幹すら見えませんからね」
見上げれば、木の葉の緑と切れ間に空の青が見えるけれど、目線は全て雑草の緑で覆われている。気を抜くとはぐれてしまいそうだ。
「こんなに雑草がよく伸びるんだから、よほど栄養のある土なのね。花が見えたら、きれいだろうなぁ」
「この辺りの植物は魔物まがいだからな。無駄によく伸びる」
「魔物まがい?」
植物が魔物なのかな?でも、まがいって、似てるけど違うもののこと、よね?
「一応ちゃんと植物なんですよ。ただ、こういう魔物の巣窟になるような森の植物は、自分の身を守るために毒素を放出したり、トゲを飛ばしたり、攻撃的なんです」
「……のんびり森林浴はできそうにないね」
「植物の毒素が空気に混ざってるからな。癒しにはならねぇだろ」
ーーえ、空気に毒!?
「ふ、普通に息しちゃってるよ!?」
慌てて口元を両手で覆うものの、これで効果がある気はしない……。
「息をするのは問題ない。無害だ」
「あ、そうなんだ」
ほっとして、口元から両手を離す。
「この辺りの植物の毒素は、雨にーー」
ーーぽつ、ぽつ……ーー
皆まで言う前に、雨粒が数滴草の上で跳ねた。
跳ねた一つが、服の裾にかかった。
ーーシュウゥ……
嫌な音を立てて、服の裾に焦げたような穴が開いた!
「わっ!な、なに?!」
後ずさってみても、雨粒は次から次へと落ちてくる。
「着ろ」
「わっ……」
バサッと頭からかぶせられたのは、厚手のコートだった。裾が地面につくほど長い。
ダネルが袋から出してくれたんだろう。
「ちっ、降ってきやがった!」