その、「男女の痴態」の一角。
見たくない、と思っていても、耳に入ってくる懐かしい声が、アスカの目をそちらに向けさせてしまう。
それがたとえ、かつての親友のあられもない嬌声であっても───。
(………ユッコ………。)
アスカは、涙が出そうになるのを懸命にこらえた。
三つの原色で染められた髪。体中に彫られたタトゥー。腕にはリストカットと注射の跡が生々しく刻まれている。
それでも、涼やかな目元や少し厚めの唇は、アスカが知る昔の彼女そのものであり、その事が一層アスカの悲しみを深くする。
その少女の名は橘由紀子(たちばなゆきこ)、通称ユッコ。
アスカをこの退廃的なパーティーに強引に誘った張本人であり、また、一年前まではアスカと同じ学校、進学校として名の知れた「私立葉月学園」の、学業優秀な生徒であった。
しかし、ある定期テストの不出来を教師や親に責められ、耐えきれなくなって逃げ出したのだ。
競争原理があらゆる場所にはびこっているこの時代においては、どこにでも転がっているような話である。
………だが、アスカの心にはその事がいつまでも自責の念として暗い影を落としていた……。
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