……あえてもう一度言おう。その女性は「回って」いたのである。
ご経験はお有りだろうか。キャスター付きの椅子に座り、その場で足や手で固定物を押してクルクルと回る、アレである。
(…………………………。)
アスカは、どうしていいか分からず、ただ呆然とその様子をうかがっている。
女性は、刈り取られた後の小麦のような薄い金髪をショートに切りそろえ、毛先を微妙にカールさせている。服は白いストライプの入ったダークスーツだが、どうやら紳士物らしい。この状況でははっきりとは分からないが、どう見ても20代後半の成熟した女性のようだ。
……………それなのに。
「キャッホ〜〜〜イッ!!」
回っているのである。……しかも、かなりご満悦な様子だ。
(………か、帰りたい……。)
目の前の女性は、恐らくは理事長の秘書か何かかとアスカには思われた。そして残念ながら、関わりたくないタイプのイタい人に違いない。
だけど、ここまで来て何もせずに帰るというのも、心が咎めるだろう。
結局、アスカは謎の女性に声をかけてみる事にした。
「………あ、あのっ………。」
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