エレベーターを降りると、そのフロアに一つだけの部屋の扉が見えた。
赤絨毯がひかれた床を、アスカはゆっくりとした歩調で進む。
やがて、目的地の入り口へとたどり着く。
チョコレート色をした、いかにも重厚そうな扉の前でもう一度、心を落ち着かせる為に深呼吸をする。
そして、ドアをノックした。トン、トン………。広いフロアに乾いた音が響く。
…………………返事が無い。
改めてもう一度、今度はもう少し力を込めた。
ドン、ドン…………。
やはり、返事が無い……。
(……………あれ)
不思議に思ったアスカがノブに手をかけると、難なくドアが少し開いた。
かすかに咳払いしてから、「失礼します。」と声をかけ、恐る恐る中へと入る。
まず目に入ったのは、正面の応接セットだった。モダン調のストーンパターンのソファーとテーブルが据えられ、傍らにはお茶の用意がなされている。
両側の壁には本棚が置かれ、電子書籍全盛期には珍しい、分厚い百科事典や各種辞書が収められている。
そして、正面。重厚な黒の立派なデスクが据えられ、その椅子では見知らぬ女性が………………………………………………………………………………………………………、
………「回って」、いた。
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