「……うぁぁ、ちょっとノンビリし過ぎたかぁ〜〜〜っっ!」


200m前方の停車場。
通学路を走るトロリーバスは今にも出発しそうだ。


アスカはラストスパートとばかりに猛然と坂道を駆け下りる。


チン、チン、チン………と、バスの発車を告げるベルが軽やかに鳴らされ始めた。


「…………だぁっ!!」


三段飛ばしで停車場の階段を登りきり、乗降口へ滑り込んだ瞬間、ドアが閉じられ、トロリーバスはゆっくりと走り出した。


バスの学生たちからは祝福とも罵声ともつきかねる歓声があがった。


「もったいねーな。結構いいタイム稼いでたんじゃね?」


「無理無理。2組の梶原が学食行く時に比べたらかわいいモンだぜ、あんなの。」


まだ肩で息をしているアスカをネタに、顔馴染みたちが思い思いの会話を交わしている。


それらを聞き流しながら、アスカは息を整えるために、大きく深呼吸をした。胸を反らせて持ち上がった視点に、窓の外の町並みが入ってくる。


山の斜面に張り付くようにして、高層ビル群が高さを競い合うように林立している。まだ高度の低い太陽が作る影によって、それらはまるで何かのモニュメントのようにも見えた。


そして、そのビル群の中央に、ひときわ目を引く巨木がそびえ立っている。





SEV(セブ)ツリー。




この街の支配者、ハヤカワ・コンツェルンの大躍進の原動力となった、高度なバイオ技術によって生み出された異様な植物───。


それは、地球温暖化の切り札として開発されたものだった。




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